ドナルド・トランプ前大統領が共和党の候補者指名を目指す中、各国はトランプ大統領の復活が意味するかもしれないことに備えている。苛烈な地域の最前線に位置し、米国との同盟関係を通じて安全保障を求めてきた日本ほど、この問題に危機感を抱いている国はないだろう。

 

安倍晋三前首相のようにトランプ大統領と親密な関係を築けるリーダーを見つけることの難しさから、より不安定で一国主義的なアメリカが地域外交の重要な問題を複雑にするかもしれない。それでも、トランプ大統領の復活は東京にとって必ずしも大変動ではないだろう。また、日本がアジアや世界の安定に不可欠な存在になりつつある外交政策の方向性を変えることもないだろう。

 

日本は、トランプ氏の最初の大統領就任を比較的うまく乗り切ったことを覚えておく価値はある。確かに、米国の同盟関係を否定し、環太平洋経済連携協定(TPP)を破棄し、北朝鮮との対立と宥和の間を行き来し、世界の独裁者たちと仲良くしてきたトランプ大統領の行動は、しばしば損害を与えたり、単に不可解なものであったりした。貿易や日米同盟内の負担分担をめぐる二国間の緊張もあった。しかし、トランプ大統領の機嫌を損ねないことを得意とする安倍首相のおかげで、東京は欧州の同盟国を苦しめたような大問題を回避することができた。安倍首相はまた、アメリカの離脱後も11カ国が参加する修正TPPを存続させた。「自由で開かれたインド太平洋」というコンセプトと、アメリカ、日本、オーストラリア、インドを結ぶ「民主的安全保障のダイヤモンド」の再活性化などである。

 

経験が期待につながる アメリカ第一主義の新孤立主義が復活すれば、米国のリーダーシップに対する根本的な疑念が再燃するだろう。しかし、日米関係を緊密化させる主な要因である中国との競争の激化は、11月に何が起ころうとも続くだろう。第二のトランプ大統領が誕生すれば、日本の指導者たちは、他の誰よりも政策を私物化するトランプ大統領の機嫌を損ねないよう、再び細心の注意を払うだろう。そして東京が慌てない最も重要な理由は、ホワイトハウスが誰になろうと、日本の政策の大筋は続くということだ。

 

日本は防衛費をGDPの2%に引き上げようとしている(2027年までに世界第3位の防衛予算規模になる予定)。日本は、韓国、フィリピン、インド、オーストラリアなど、多くのインド太平洋地域諸国と防衛・外交関係を強化する一方、ハイテク・サプライチェーンやグローバル・サウスへの働きかけについてワシントンと緊密に連携している。東京はまた、2022年以降、ロシアとの関係にリスクがあるにもかかわらず、ウクライナに強く味方している。ロシアは、日本が常に争わなければならない、近隣の、大陸規模の、独裁的な大国である。

 

もしワシントンが世界情勢に関与し、コミットし続けるなら、日本の変貌はアメリカにとってより強く、より価値のある同盟国になるだろう。あるいは、トランプ大統領の下であれ、他の大統領の下であれ、アメリカが世界秩序を維持するための懸命な努力をやめることがあれば、これらの改革は東京が自国の面倒を十分に見るために移動しなければならない距離を縮めるだろう。

 

もちろん、トランプが勝利した場合にも課題はあるだろう。日本のアナリストたちは、3つの重要な懸念を表明している。

 

第一に、安倍首相はその突出した個性と政治的な地位からトランプ氏と相性が良かったが、2020年に首相を辞任し、2022年に暗殺された。そしてトランプはおそらく、2期目には大人の枢軸に囲まれることはないだろうから、日々の関係運営はさらに難しくなる

 

第二に、日米は重要な連携構築の勢いを失う可能性がある。トランプ大統領はおそらく二国間同盟を破壊することはないだろう。しかし、一方的な衝動に駆られ、外交的な根回しを軽んじていることから、中国の力を牽制できるような大きな連合(クワッド、AUKUS、日米韓3国同盟など)の育成において、トランプ氏が特に効果的でないことは確かだ。中国の覇権を求める動きが加速するにつれ、主要な地域関係は中立、あるいは逆に立ち往生する可能性がある。

 

第三に、これからの数年間は抑止力に加え、規律と慎重さが求められる。こうした資質はトランプ大統領の得意とするところではない。ワシントンと東京の政府関係者は、早急に防衛態勢を強化しなければならないこと、そして北京の最も標的となりそうな台湾が自国の防衛態勢を急速に強化するよう刺激しなければならないことを認識している。しかし、中国が軽蔑する台湾の頼清徳新総統が権力を握る中、アメリカは不必要に緊張を高めるような暴言や外交的な失策も避けなければならない。台湾を戦略的パートナーとしてではなく、交渉の切り札としてしか見ていないようなトランプ大統領は、このバランスをうまくとれないかもしれない。

 

東京、そして他の同盟国の首都でよく言われるのは、国際平和と安定に対する危険性が高まるにつれ、外交上のミスを犯す余地は狭まっているということだ。しかし、アメリカの今度の選挙で何が起ころうとも、日本の外交政策における静かな革命は続くだろう。実際、トランプ大統領がカムバックを果たせば、日本の力は自由世界の運命にとってより重要になるだろう。

 

(上記は “ブルームバーグ・オピニオンのハル・ブランズ氏による報文( 2024年2月28日付)の抄訳です。なお、原文にはアンダーラインはありません。)