前のエリアに現在建築中で引渡しが終わっていない現場が3件残っていたため、近藤は今のエリアと以前のエリアをしばしば往復していた。

車で1時間半ぐらいの道のりだ。

朝1時間15分かけて展示場に到着し、午後1時間半かけて現場に行き、できれば現場から20分ぐらいの自宅に直帰したいのだが、それもなかなかできずに、わざわざ展示場に戻ったりしていた。

ただ近藤はそれほど苦痛に感じていなかった。展示場に戻れば、仲の良い仲間がいたため、色々雑談しながら楽しく過ごせたからだ。

近藤は今日も現場でお客様と待ち合わせし、太陽光発電の補助金の書類に記入してもらい、建築途中の現場を案内し、展示場へ戻ろうとしていた。

帰り道の1時間半、長い道のりを車で走っていると、色々と考え事をしてしまう。


近藤はもうすぐ40歳になろうとしていた。

正直これからまた転職しなければならないことは苦痛だった。

第一、新たに面接する際、転職の理由はなんと言えば良いのだろうか。

結果的に言えば、売れずにやめることになるのだ。

40過ぎの売れない営業マンを新たに雇ってくれるのだろうか。


近藤の父親は現在70歳で、高卒から65歳まで勤め上げ、5年前に定年退職したが、現在何もしないのも暇だという理由で、近所の工場でアルバイトをしている。

近藤の兄はというと某大手会社の工場で高卒から20年以上勤務をしている。

近藤はどうかといえば、勉強が出来たわけではないが、回りよりはそこそこできたため、何か目的があったわけではないが、大学を目指した。

裕福だったわけではないので、新聞配達をしながら2年浪人し、2流と3流の間ぐらいの大学の文学部に合格した。

団塊ジュニアの世代である近藤は、大学進学の時もそうだったが、就職もなかなか決まらず、なんとか教材の営業会社に入社することができた。

その会社も巷では有名なブラック会社であった。何十万もする教材を訪問販売する会社で、毎日のように罵声が会社内で飛び交っていて、新入社員の頃は毎日ビクビクしながら会社に通っていた。

訪問販売という仕事に限界を感じ、5年ほどで退職し、その後アルバイトなどで生計を立てながら、今の真心建築に入社したのだ。

しかし今また辞めようとしている。

父や兄と比べると一番安定していないのは自分だった。

2浪してやっと大学へ行ったはいいが、何の役にも立っていない。

父や兄は高卒でも地道に勤め上げている。


「はあ~」無意識にため息が出てしまう。

「俺何やってるんだろう」近藤は虚しくなり、つぶやいた。


何とかこれから会社を辞めて成功することはできないだろうか。

どこの会社に入っても、結局は同じなのだ。多かれ少なかれ、なんらかの問題は起きる。


せっかくこの会社で建築についてのことを苦労して1から覚えたのだから、その知識を活かした上で何かやれないだろうか。


近藤は新しいことに向け、歩みだそうとしていた。