「お前が楽しく弾けたらそれでいい」とパパ。

「あなたはきっと合格するわ」とママ。

音楽学校の入試の日がやってきた。

ピアノの実技試験に向かうメラニー。

緊張と期待に胸をふくらませ

審査員が並ぶ部屋へ入っていくが…

母は、扉からでてきた娘をみて一瞬で悟る。

青白い頬に涙の筋が光っている。

2人は無言で出ていく。

彼女に何が起きたのか?

 

譜めくりの女

ドゥニ・デルクール監督

2006年

カトリーヌ・フロ

デボラ・フランソワ

 

噂どおりの絶品フランス産サスペンス爆  笑

上品でもの静かな悪意

音もなく近づいてくる。

どのタイミングでどうしてやろうか

チャンスを伺う姿にドキドキさせられる85分

ザワザワ感を堪能しました。

ただならぬ気配のオープニングですよ。

を刻む包丁(肉屋)と

ピアノを弾く白い指の動きが

交互に映る冒頭が

不気味で私好みハート

 

 

  他の復讐劇と違う

今作の特徴は、

ターゲットが復讐されたことに気づかず、

動機も知らない。

普通の復讐劇は

 

「俺はお前にやられた○○の家族だ」

「貴方がしたことを教えてあげましょうか?」

 

という具合に

復讐者が種明かしをすることによって

自分の憎しみ・悔しさをぶちまけ、

相手に懺悔を促すことが多いです。

 

「ザ・ギフト」「霧の旗」「目には目を」「理由」

「この子の七つのお祝いに」「オールド・ボーイ」

「ゆりかごを揺らす手」「オリエント急行殺人事件」

 

などがこれに当たります。

 

でも、今作の主人公は違います。

何も告げず、ささやかに手を加えるだけで

確実に打撃を与え去っていく。

 

  感想

自分の無神経な行動

誰かの人生を狂わせているかも?

知らぬ間に仕返しされているかも?

 

有名ピアニストのアリアーヌは

愛妻家の夫ジャンと

素直で才能ある息子トリスタンと共に

テニスコート、プール完備の豪邸で暮らす。

そこへ子守バイトとして

大学生メラニーがやってくる。

妻を気づかう優しい夫がメラニーに頼む。

 

息子の世話だけでなく

妻から目を離さず

そばで見守ってくれ。

彼女は2年前にひき逃げ事故をされ

不安症になり人前であがるようになった」

 

ラジオ収録が近づき、

ショスタコーヴィチ ピアノ三重奏曲第二番

の練習に気合をいれるアリアーヌ。

左隣に控えているメラニーが

絶妙なタイミングで楽譜のページをめくる。

するとリラックスして

上手く弾けるアリアーヌ。

演奏を左右する仕事、譜めくり。

譜めくりによって演奏の出来が変わる

重要な存在だから、信頼できる人と組みたい。

「あなたに譜めくりをお願いしたいわ」

「ええ、喜んで」

微笑むメラニー。

その瞳は兎が罠にかかったのを

冷ややかに見つめるようだった。

三重奏のメンバー

チェロ奏者が卑猥な目つきで

メラニーをみつめ、

2人きりになったタイミングで

わいせつ行為に及ぼうとする場面の

まぁー恐ろしいこと…

チェロのネックを握る手にぐっと力がはいり

チェロを支えるエンドピンの先端が…!!

一方、女性バイオリニストは

譜めくりのメラニーに対し違和感を覚える。

「アリアーヌ、あの娘があなたをみる目は

恋人みたい…」

演奏当日、

過緊張からアリアーヌの指はふるえる。

が、演奏が進むにつれ、気分がのってくる。

正確な譜めくりのお陰で満足の出来ばえ。

会場の客席から拍手がおくられ、

メラニーは自分と重ね合わせて恍惚を感じる。

が!

アリアーヌがファンのサインに応じる姿をみて

つらい過去がフラッシュバック。

気のある素振りをしはじめるメラニー。

アリアーヌは関心がむきはじめ、

依存心が高まっていく。

「メラニーなしではうまく弾けない」

彼女のフェロモンに胸がときめき

心が揺さぶられ

罠にかかっていく。

メラニーが子息と遊ぶ場面もゾクゾクしますよ。

母親譲りのピアノの才能があり

情感豊かな演奏をするトリスタン。

メラニーは彼をそそのかし、

腕の筋を痛めるような難易度の高い曲を

速いテンポで練習させる。

彼が可愛がって育てている黒い雌鶏

「嫉妬」という名を持つ鳥を

じっとみつめるメラニー。怖い、怖い。


無邪気な息子がなにも気づかず

かくれんぼする場面でさえ、スリリング。

プールで潜水のタイムを計る彼を

じっと見下ろしたかと思えば、

潜っている男の子の頭をおさえつけ、

「息止めタイムを伸ばしましょう」

溺れる寸前で手をはなし「記録がのびたわ」

メラニーの狡猾な企みで

この家族はどうなってしまうのか?

「ここを去る前に

1つお願いがあります。

サインがほしいんです」

「お安い御用よ」

自分の人生を狂わせたものと

同じアイテムで相手の人生を奪う。

だれも嵌められたことに気づかない。

私と同じ苦痛を

同じ年月だけ

味わうがいい。

運命さえも彼女に味方する

展開がスタイリッシュでした。