眠らぬ街のシデレラ 廣瀬遼一編  ② | 蜜柑のブログ

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私が密かにハマってるアプリのまとめ。

自分が選択したそのままを載せてるので

ご了承ください。

(あとで確認次第、修正する予定です)

 ※申請した後にメッセ
 送ってもらってもOKです。

無言申請は無効になります。

遼一「お義母さんと同じ反応」

悠里「あっ」

遼一「やっぱり親子だな」

お前もな。

悠里「言っときますけど、遼一さんだって
   お義母さんと同じ笑い方しますよ」

「あと、新聞読んでる姿とかは   
 お義父さんに似てるし」

遼一「それは言うなって」

そこが子供なんだよw

和やかな食事の中で、ふとテレビの音が

聞こえてくる。

テレビ『・・・で、フランスでは久しぶりの
    政権交代となり』

悠里「えっ」

遼一「へえ。日本にもなんか影響あるかもな」

悠里「そうですね・・・」

(フランスかあ・・・政権交代なんて
 大きな話題、取材したい・・・)

(休み明け、編集長に相談して
 みようかな)




実家を出て、部屋を取っていたホテルに

移動した。





遼一「いやあ、楽しかったわ。お前の両親
   楽しくていいね」

悠里「そう言ってもらえるとふたりも
   喜びます」

「それで・・・差し出がましいようですが」

改めて遼一さんの前に立ち、思い切って

口を開く。

「もうすぐ、遼一さんの・・・つっ
 妻になるわけですが」

遼一「何よ急に」

悠里「私は、妻である以上に・・・
   廣瀬遼一のファンなんです」

「今まで、遼一さんの作品はひとつ残らず
 読みました。だから・・・」

「遼一さんが今どうして行き詰ってるのか」

「一緒に考えたいです」

遼一「悠里・・・・」

悠里「作品のことに関しては、私じゃ
   何もわかりませんけど」

「でも、遼一さんのことに関しては・・・」

「ご両親と同じくらい、理解してる
 つもりです」

遼一「・・・ああ、サンキュ」

「じゃあ時間取らせて悪いけど
 書きかけの原稿読んでみてくれる?」

おっ、そんなこと言うの、意外。

悠里「はい!」

遼一さんからUSBを受け取り

持って来たノートパソコンで

早速ファイルを開く。

読み進めるうちに、妙な違和感が

付きまとい始めた。




・・・・・




(なんだろう・・・ずいぶん淡々と
 してるような)

(盛り上がりに欠けるっていうか・・・
 あんまり主人公に感情移入できないな)

遼一「どう?」





選択)


A 正直に答える→選択

B もう少し読んでみる

C オブラートに包む



さあ、言ってみよ。


 

「なんていうか・・・
 遼一さんらしくないような」

「今までも男性が主人公の作品は
 ありましたけど」

「性別が違っても感情移入できたんです」

遼一「今回はできない、か・・・」

悠里「なんでしょう・・・遠いところから
   見てるような。他人事っていうか」

遼一「まあ、無理もないよな。
   俺自身がそうだから」

悠里「え?」

遼一「この主人公と境遇が似てるだろ。
   厳格な政治家の息子」

「それを掘り下げようと思えば・・・
 思うほど、自分と重なるんだよな・・・」

悠里「だから、書くことを無意識に
   避けてる・・・って感じですか?」

遼一「かもな。これをもっと切り込んで
   書くとなると」

「過去の自分とまた向き直らなきゃならない」

「そもそも親父との関係がどうであれ
 作品に自己投影なんてしたくないしな」

悠里「そっか・・・主人公とあまりにも
   重なりすぎるんですね」

遼一「そうなんだろうねえ。はあ、まさか
   こんな苦労するとは思わなかったわ」

「こういうのが嫌で、純文学から
 手を引いたってのに」

自嘲気味に笑い、遼一さんが

私の頭を撫でた。

「悪かったな、弱音なんて吐いたりして」




信頼度200。さあ、ここからどう脱するのかな。

・・・・・





遼一「悪かったな、弱音なんて吐いたりして」

悠里「どうして謝るんですか?」

「私は遼一さんの、つっ、妻になる
 女ですよ!」

遼一「いつになったら『妻』って言葉に
   慣れるわけ?」

悠里「もう・・・!もうちょっと
   時間ください!」

「でもお父さんも言ってましたけど」

「今は私がいるんだから、なんでも
 話してほしいです」

「弱音でも愚痴でもいいですから」

「遼一さんのことなら、全部受け止めたい」

遼一「悠里・・・」

悠里「それが、夫婦ってものですよね?」

遼一「・・・そうだな」

(遼一さんの気持ちは痛いほどわかる)

(書きたいのに書けない。だけど妥協は
 したくない・・・・板挟みなんだ)

遼一「じゃあ今は、優しい奥さんに
   甘えさせてもらいましょうかね」

悠里「え・・・」

遼一「最近缶詰状態だったから、構って
   やれなかったし」

遼一の特異分野か。

「奥さんも、ちょっと欲求不満だろ?」

悠里「そ、そんなこと・・・!」

否定する前に、優しすぎるキスが落ちて来た。

一瞬で虜になり、目を閉じて何度も

何度もキスを受け止める。

遼一「そんなことない?」

悠里「っ・・・ずるい!」

遼一「はいはい。俺がずるいのも
   意地悪なのも知ってるでしょ」

先にベッドに座った遼一さんが

手招きをして私を呼び寄せる。

素直にそちらへ向かうと、立ったままの

私の腰を遼一さんがそっと抱きしめた。

遼一「こうしてると安心するわ」



・・・・・



「こうしてると安心するわ」

悠里「それはよかった・・・です!?」

なんだ。どうした。

服の裾から手が差し入れられて

わき腹をくすぐるように上へと伸びていった。

「ちょっ・・・・無理です!
 本当にくすぐったい!」

遼一「ちょっとくらい我慢しなさいよ」

「ほら、これなら気持ちいいでしょ」

悠里「ぁ・・・・」

下着を外され、遼一さんの両手が

柔らかく肌を包み込む。

指先で敏感なところを執拗に

いじられれば、

もどかしさに腰が揺れる・・・

遼一「やらし」

悠里「ん・・・っ」

遼一「おいで」

(そんなふうに、誘われたら・・・)

遼一さんを追いかけるように

ベッドに膝をつく。

寝転がった遼一さんの上にそっと

またがると、全身を優しく

愛撫してもらう・・・・






(もっと遼一さんを支えたい。
 力になりたい)

(そのために、私は何ができるのだろう・・・?)

スカートの中の、そのさらに下着の中。

遼一さんの指に直接肌をなぞられる

頃には、何もかもわからなくなっていた・・・――









九州から帰ってくると、遼一さんは

再び書斎にこもり始めた。

それでもどうやら書けないらしく

たまに出て来ては煙草を吸って戻って行く。

(あれだけ余裕をもって打診されたのに)

(締め切りまであと1か月・・・・)

(締め切りまでに書けないと、この話は
 なかったことになるって言ってた)





・・・・・・





そしてもし締め切りを守れなければ

南原監督は二度と遼一さんを

使ってはくれないだろう。

巨匠の仕事を潰したとなれば

映画界での遼一さんの信用はガタ落ちだ。

(それに・・・)

テーブルの片隅には、遼一さん側の

証人欄が空欄の婚姻届。

(遼一さんは、お義母さんに書いて
 もらえばいいって言うけど)

それはまるでお義父さんに

本当の意味で

認めてもらえないような気がして

少しだけ悲しい。

(そんな結婚は嫌だ・・・)

(お義父さんだって、きっと私たちを
 祝福してくれてるはず)

(お義母さんが言うように、お互い
 意地を張ってるだけだとしたら)

悠里「・・・くよくよしても仕方ない!
   絶対に突破口はあるはずなんだから」

ノートパソコンを立ち上げて

遼一さんのUSBから移したデータを

開いてみる。

改めて脚本を読みながら

あのときの言葉を思い出していた。






遼一「これをもっと切り込んで
   書くとなると」

「過去の自分とまた向き直らなきゃ
 ならない」

「こういうのが嫌で、純文学から
 手を引いたってのに」







(今回の脚本と、純文学・・・
 遼一さんの中では同じなのかな)

(それなら、筆がのらないのも
 うなずける)

でももしかして、遼一さん自身は

そのことに気づいていないのかもしれない。

(すごく敏い人だけど、意外と自分の
 気持ちには疎いところがあるから)

(無意識のうちに、書きたいことを
 遠ざけてる?だとしたら・・・)

頭を抱えているだろう遼一さんがいる

書斎のドアを眺めながら

本当に小さいけど、突破口を

見つけた気がした――