「おい。傘させよ。濡れるぞ」
遥に言われ私はハッとすると、傘をさしている彼の事を見た。
「お前何やってんだよ。てか何泣いてんだよ」
「遥…」
彼の傘に入り私は泣き始めると、彼はポンと頭を撫でる。
「取りあえず場所離れるぞ。他の奴らビックリしてるから」
私の肩を抱き歩けと言われると、そのまま歩き始める。私はゴシゴシと何度もおでこを拭きながら彼の隣を歩いていた。

 

 

「で。なして泣いてる。なんかあったのか?」
私達は歩き続け学校を出ると、彼の傘に入ったまま話しを聞いていた。
何かあった。あったけどとてもじゃないけど言えない。
言ったら…
「ゴメン。なんか会えたらほっとしちゃって」
ヘヘッと苦笑しながら私は答えると俺に会いたかったのか?と問いかけて来る。
会いたかった…いや会わなくちゃと思ったのだ。
あのまま明日になったらこの嫌な思いをずっと引きずる事になる。ましてやあんな事をされてしまったのだから…
「訳解らんな」

首を傾げながら彼は話して来ると、私達は信号に差し掛かり立ち止まった。
あの時彼と立っていたこの横断歩道。
赤信号になっており私達は信号が変わるのを待っていた。
時間は既に7時を過ぎており雨で光車のライトが眩しい。私達の目の前を通り
過ぎる車を見ていると、私は思わず彼のシャツの裾を掴んだ。
「なんだ?」

「手…」
「ん?手?」
私は傘を持っている彼の手を見るとそう呟いていた。
「手…繋いでいい?」
「ん?あーいいけどでも繋ぐっちゅーか握手だぞ。僕と握手!いいのか?」
そう言って右手を出して来ると、私はぶるぶると首を振り左手を掴む。
傘を掴んでいる手に触れると、私は思わずこの光景に笑ってしまった。
「何笑ってんだよ。自分でやっといて」
「ゴメン…なんか間抜けだなって思ったから」
クスクスと笑いながら私は答えると、彼はポンと右手で私の手に触れた。
「飯喰って帰るか?」
「ん…うん。そうしようかな…」
彼の問いかけに素直に頷くと遥は少し驚いた顔をしている。
珍しく素直に言って来たと話しやっぱりおかしいと答えると、赤だった信号が青に変わって行った。

 

 

『羽琉香は何故何も言わなかったんだろう?』
彼女を家まで送り届けると俺は溜め息をつきながら自転車に乗り込んだ。
何故あの場所で泣いてしまっていたのか。どうしてあんなに素直な答えが返って来たのか。未だにさっぱり理解出来ない。
夕飯を喰おうと話すと考える間もなく頷いて来る姿に俺は何があったのかと
思わずにはいられなかった。
竜杜の駅中にある店で飯を喰って帰って来たんだけど、彼女はずっと俺の手を握りしめていた。
普段だったら絶対恥ずかしがるくせに、駅を歩いている時も電車に乗っている時も何故かずっと手を握っていた。
考えられない行動の裏に何があるのかその時の俺は全然理解することが出来ずにいた。

 

「遥。この傘…捨てようかな」

 

別れる直前、彼女はもらったと話していた傘を見るとそんな事を話し始めた。
ある人からもらったと話してた事に嫉妬した俺。それに対しての言葉だった
んだろうか。
嫉妬していたという思いが大人げない事だと思い、使い続ければと話したけど彼女はその傘をじっと見つめたままゴシゴシと何故かおでこを拭いていた。
気付くと彼女のおでこは赤くなっており、俺は何してるんだ?と問いかける。
「おでこ痒くって…」
羽琉香はそう言って痒いとかき始めると、俺は薬を塗っとけと話しておいた。

 

『最大の謎はこの後…あの女が自分からキスしろなんて…』

 

訳が解らない今日の彼女の行動。
最大の謎は家の前に到着し俺が帰ろうとした瞬間捨てようかと話していた傘がポンと開いた。
「遥。1つだけお願いしていい?」

「ん?何」

 

「・・・この傘の下でキスして」

 

「あ?」
彼女の言葉に俺はビックリすると、何を言ってるんだと問いかける。
いいからお願い!と言われ俺は固まってしまうと、車のランプが俺達を照らした。
何かと思ったら彼女のお父さんが仕事から帰って来たようで駐車場に車を停めようとし出している。
羽琉香は溜め息をつくと傘を折り畳み変な事言ってゴメンと話した。
おじさんが車を停め出て来ると、俺はこんばんはと言って挨拶をする。おじさんもまたどうもと言って中に入って行くと彼女はありがとうと言って手を振り出した。

 

『涙目で家に入って行った…絶対何かあったはずだ』
意味不明な彼女の行動に俺は首を振りながら自転車をこぎ続ける。
あの時…
横断歩道を渡る際彼女と俺の2人で傘を持ち歩いていたのだが、彼女はギュッと俺の左手を握りしめていた。

 

「今日…最初から一緒に帰れば良かった」

 

羽琉香はそう呟くと、俺達は雨の中横断歩道を渡り駅へと向って行った。

 

                             ー終ー