衝撃の判例シリーズ、みなし贈与「著しく低い価額」は、時価の80%未満?! | 中小企業の経営参謀「税理士星川」の戦略、税制、法務、海外展開のお役立ちブログ

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今日は、月例の判例研究会に参加してきました本
忙しい生活の中で、税理士も仕入れをする時間は「作らねば」なりません。
その一つとして、この判例研究会は自分の仕事を支える大事な
仕入れの場です。

今回研究した裁判例は、東京地判平成19年8月23日(行ウ)第562号。

事案はザックリ以下の通り。

Aさんが、所有していた土地の持分をその妻、子供たちに売却した。
その際土地の持分の売買価額の算出に用いたものがなんと財産評価基本通達による、
「宅地の評価」
(以下、「相続税評価」といいます)。
財産評価基本通達による評価額は、実務上、贈与税、相続税の
課税価格を算出する際に用いるもの。
この評価額を、売買をする際の売却額として用いた。

これに対し、被告課税庁は、この売買価額は、相続税法7条にいう、
「著しく低い価額」に該当するとして、その売買価額とその譲渡時における
時価との差額は、その譲渡を受けた子らに「贈与」があったものとして
贈与税の賦課決定処分等を行った。
と、こういう事案です。

実務上、親族間での不動産の譲渡というのは、頻繁に出てくるものです。
その場合の価額の決定にはとっても神経を使います。
なぜなら、通常第三者間の取引であれば、その売買価格はお互いの独立した立場から
交渉が行われ算出されます。ところが、親族間となれば、利害が対立しない
ことが多く、その価額の設定には恣意性が入り込みやすいからです。

今回の事案で問題になっている相続税法7条は、ある財産の売買価額が、
著しく低い価額に設定された場合には、売主から買主に通常の取引額と
その売買価額との差額についての贈与があったものとしてみなすとしています(みなし贈与)。その結果、買主に贈与税が課税されてしまう、こんな
困ったことが起こります。

*******************************
相続税法7条
著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の
譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該
譲渡があった時における当該財産の時価・・・との差額に相当する金額を
当該財産を譲渡した者から贈与・・・により取得したものとみなす。以下省
*******************************


この規定の存在ゆえ、親族間での売買価額が、「著しく低い」価額に
なっていないかを十分検討する必要があるのです。

我々は、普段親族間での不動産の売買に関与するときは、近隣不動産の
売買実例、不動産鑑定士さんの鑑定評価などを参考にしてその価額の
決定にアドヴァイスします。
今回の事案では、その売買価額を「相続税評価額」で行ったという、
なかなかアグレッシヴなご家族が主役になっています。

では、地裁の裁判官は何と言ったか・・・これを抜き出してみると、
ザックリ以下のように述べています。

7条の「当該財産の時価」とは客観的交換価値をいう。

7条の「著しく低い価額」とは、時価とその売買価額との開差が
社会通念に従い、著しいかどうかによって判定すべき。

土地の相続税評価額(路線価)は、「時価とおおむね一致すると
考えられる地価公示価格と同水準の価格の約80パーセントとされて
」いて、
これは周知の事実。
80%という割合は、「社会通念上、基準となる数値と比べて
一般に著しく低い割合とはみられていないといえる
」。

相続税評価額と同水準の価額かそれ以上の価額を対価として
土地の譲渡が行われた場合は、原則として「著しく低い価額」の対価に
よる譲渡ということはできず
」、もし相続税評価額が時価の
80%よりも低くなっており、それが明らかであると認められる場合に限って、
「著しく低い価額」の対価による譲渡になり得ると解すべきである。

よって、相続税評価額での譲渡は著しく低い価額での譲渡では
ないので、課税処分を取消す。


土地の売買をしたご家族に負けず劣らず、アグレッシヴは裁判官だ、
という感想を持ちました。( ̄□ ̄;)
相続税は、原則として、相続による取得時の財産の「時価」を
課税価格とします。(相続税法22条)
この「時価」を算出する方法として、国税の方で出しているのが
「財産評価基本通達」。これに従って算出された相続税評価額は
すなわち「時価」になるはず、原則として。
同通達は、宅地についての評価方法として「路線価」を用いた方法等を
示しています。

しかし、この裁判官は、財産評価基本通達による相続税評価額について、
「(相続税法22条は、)相続税評価額を課税実務上時価に相当するもの
として使用することを許容していると解されるが、現実には、相続税評価額
と時価すなわち客観的交換価値との間に開差が存在することは否定できない」
という思考で、そもそも相続税評価額と「時価」は一致せず、開差が
生じることを前提にしています。

そして、土地の場合の相続税評価額は、「時価」の概ね80%程度となることから
これは「著しく低い価額」とはいえないと判断しています。
ここまではっきりと相続税評価額は、「時価」と異なることを
明言するとは・・・
そして、時価(土地の場合は公示価格等)との比較で80%という基準を
出すとは・・・大変興味深いです。

相続税の課税実務においては、「時価」は神のみぞ知るものであり、
やむを得ないので、財産評価基本通達により算出した「相続税評価額」を
時価と「みなして」来たというのが事実でしょう。
土地についていうと、実際に売買されている実勢価格より、路線価の方が
80%くらい安い(最近は路線価が実勢価格を上回る場所も多いようですが)
ということはよく言われていますが、このあたりは、
通達がそう書いているのだから、まぁまぁ、それに従いますか」と
いう世界があると思います。(この点、税理士の公正な立場が揺らいでいる
という指摘もあるかもしれません。)
すなわち、私の頭の中には、相続税の場面においては、相続税評価額を
使っておこう(本件裁判官同様、22条は“許容してくれる”という思い)、
一方で、売買の価格決定の場面において意識する7条(所得税法59条も)を
警戒する視点においては、「時価」は実勢価額を見ておこう、という
発想がありました。

確かに、相続税法の条文の体系的な理解をすれば、相続税法22条の時価と
7条の時価とは別意に解する必要はないですね。
そうすると、相続税評価額は「時価」での譲渡なので、7条による、みなし
贈与を心配する必要はないという発想は一考に値します。
(つまり、7条も相続税評価を許容してくれるという思考です。)
従来、実勢価格を参考にしなくては!という固定観念でいましたが、
もう少し柔軟に考えてよいのかもしれません。

そして、本件の裁判官が示した「著しく低い」かどうかの時価の80%基準、
これは、大いに参考になります。地裁の判断であることがやや弱いところ
ですが、この判断の射程距離は土地の売買についての一般論的な判断と
読めるのである程度使えそうです。

19年の判決ということで新しくない判決ですが、また一つ勉強になりました。
(この事案はこの地裁判決をもって確定しています。)

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