◆小田中直樹『日本の個人主義』ちくま新書、2006年6月

個人の《自律》をめぐって、本書では大塚久雄を取り上げ、そして彼の思想を近年のさまざまな思想や学問の成果と比較検討する。

教科書のように、先行する所説を整理していく手際の良さには感心するが、読み物としては、いまいちな出来だったと思う。したがって、《個人の自律とは、懐疑精神とコミュニケーション能力を兼ねそなえ、そのうえで「自ら立てた規範に従い、自らの力で行動すること」である(p.180)》という結論は、落着くところに落着いた感がなきにしもあらず。優等生的というか非常にお行儀が良い本なのだ。もちろん、結論が凡庸だから悪いというわけではなく、たとえ凡庸であっても主張すべきことは主張するのが学問だと思うので、本書の考えそのものは尊重したいと思うが。――

とはいえ、著者の読書ノートを読まされているようで、何かもう一工夫欲しかった。

小田中 直樹
日本の個人主義