デジタルビデオにおけるSD解像度 | 音響・映像・電気設備が好き

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はじめに

筆者が最初に触れたデジタルビデオは博物館などで利用されている映像送出サーバでした。

ある日、デコーダがデコード可能な範囲を調査しようと、送出用MPEG2データを収集していたら、素材各々で解像度が3種類に分けられるという面白いことに気がつきました。

その解像度とは、720×486、704×480、720×480です。

この謎が解けたのはノンリニア編集に携わるようになってからなのですが、今回この「デジタルビデオにおけるSD解像度」について少し記述します。

デジタルビデオの規格SMPTE 259M

NTSCでは走査線の数は525本(有効走査線数は486本)と定められています。
ナチュラル・ボーン・ノンリニアの筆者や、PCで画像系に触れている人ならば、「水平解像度は一体何ピクセルなんだ!?」と疑問に思うかもしれませんが、「NTSCで水平解像度にピクセル解像度なんて存在しません」
考え方としましては、水平方向の解像度に対して、「ピクセル数」という概念は存在せず、ある波形を決まった数でサンプリングすること=ピクセル解像度なのです。

参考:映像信号における解像度
(結構、無茶言っていますが、人に説明するにはこんな感じでいいんだな、くらいに思ってください…)

といっても、水平解像度は無限ではないので、おおよそこれくらいを満たせば大丈夫だろう、と考え出された数値が「720ピクセル」です。

走査線486本を、720ピクセルでサンプリングすることをD1と呼びます。
(このため、圧縮なし・270MbpsのSDI伝送がD1と呼ばれる模様。)
イメージ 1

この解像度(正確には画素数)はSMPTE 259Mという規格名称で定められています。
今回取り上げる話は、この720×486を基準とします。

非正方形ピクセルという概念

さて、720×486がNTSCでのデジタル規格ということが分かりましたが、ここで気がつくことは、「NTSCは画面比率が4:3なのに、720×486は4:3ではない!」ということです。

720を基準に4:3を当てはめると、垂直解像度は540で、
486を基準に4:3を当てはめると、水平解像度は648になってしまいます。

この矛盾を解消するためには「非正方形ピクセル」という概念を利用します。

イメージ 2
これはD1ピクセル(約0.9091)と呼ばれ、ノンリニアビデオ編集で製作者を混乱させる元になっているものです。比率が1:1でないピクセルのため、非正方形ピクセルと呼ばれます。

非正方形ピクセルが許容できない方は以下の概念も参考にしてみてください。

イメージ 3
あくまで画像を形成するピクセルは正方形ピクセルで、垂直ピクセルの間に隙間があるという考え方です。
こちらの考え方の方が誤解が生じにくく、個人的にお気に入りですが普及はしていません。

DV・MPEG2における解像度

さて、NTSCにおけるデジタルビデオ解像度は720×486ということが分かりましたが、実は圧縮を用いた映像ではこのままでは不都合なのです。

DVやMPEGなどで用いられるDCT圧縮では解像度の数値が16の倍数でないと都合が悪いのです。

720×486の場合、720は16の倍数ですが、486は16の倍数でないため、486の近似値である480を代わりに使用します。
6ピクセルは「映像的に、これくらいなくなっても大丈夫だろう」ということで上下3ピクセルに分け、切り捨ててしまいます。
ただし、3ピクセルという値は奇数なので、このままですとフィールド・オーダがひっくり返ってしまいます。映像処理の都合上、上2ピクセル、下4ピクセルのように偶数でカットすることでフィールド・オーダが守られます。
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720×480はDV解像度などと呼ばれ、DVノンリニア編集ソフトなどではよく目にする値です。

冒頭に述べた、MPEG2の解像度が720×486、704×480、720×480と混在していた、と書きましたが、上記の説明から、最適解像度は720×480だということが分かります。
※実際は、ハードウェアMPEG2デコーダでSDI(SMPTE 259M)出力を備えていた設備なので、720×486でもOKというちょっとイレギュラなシステムだったのです。
※ちなみにDVD規格ではNTSC本来のピクセルアスペクトを基準にし、垂直解像度480を固定と考えた「704×480」があります。この場合、左右8ピクセルが足された状態で内部的には処理されるようです。
(ややこしくしたくないですが、13.5MHzサンプリングでの分解能は710.85ピクセルらしいです。710.85×486がNTSC本来の解像度で、ここから得られる比率を使うと704×480が導き出されるそうですが、今回はSMPTE 259MとDVの話をメインに扱うので、そんなのあるんだーくらいの理解で良いです。)

さて、ここまでが「デジタルビデオにおけるSD解像度」の説明です。

が、実用するには実例を挙げないと意味不明なので、以下オマケです。

アスペクト変換の壁

以上の説明から、DVは、

720×486でサンプリングされたものを
上2ピクセル、下4ピクセル切り捨てて
(プログレッシブや静止画は上下3ピクセルでOK)
720×480にしている

ということが理解できたと思います。

ここで例をいくつかあげます。
例1:DVで撮影した映像から、PC上で正常にアスペクトが表示されるように静止画を抜き出したい。
回答:DV画像なので、解像度は720×480です。
ならば、「720を固定して、720×540にすれば良い!」と思うかもしれませんが、それは不正解です。

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NTSCの映像は、くどいですが、720×486にサンプリングされた映像を、上下合わせて6ピクセル切り捨てているわけですから、切り捨てられた6ピクセルを復元してから720×540に変換しないと正常な比率にはなりません。(上下6ピクセル分は黒くなります。)

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6ピクセル追加しなくてはいけないなんて、めんどくさいぞ!という方は、近似値で720×534にするという方法が他にあります。

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インターレースが崩れるのが汚い!と思う方は近似値で648×480にする手もあります。(こっちのほうが簡単だ!)
※図中真ん中の4工程は考え方としてあるだけで実際に作業する必要はありません。

例2:640×480で製作された静止画像を、DV解像度にするにはどうすればよいか?
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回答:640×480を、720×486に解像度変更してから、上下3ピクセルを切り捨ててください。
(フォトショップでは画像中央固定のカンバスサイズ変更で行うことが出来ます。)
※720×540で素材を作成したほうが、解像度的には良好な結果が得られます。
※静止画ですので上2ピクセル、下4ピクセルという縛りはなく、合計6ピクセルカットすれば問題ありません。

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垂直解像度が480なんだからそれは固定しておきたい!という方は、640×480を711×480に変換した後、左右に4.5ピクセル足して720×480にします。(左右4.5ピクセルは黒くなります。)
※SONY DSC-1024HDなどのスキャンコンバータで4:3PC映像をNTSCに変換すると、この処理が行われるようで、左右約5ピクセル黒くなります。

例3:DV動画を640×480のWMVに変換したいが、どうしたらよいか?
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回答:映像編集ソフトによっては自動でアスペクトを変換してくれるものもありますが、考え方としては、上下に合計6ピクセルを足して720×486にしてから、640×480で書き出す、というのが正解です。(上下6ピクセルは黒くなります。)


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しかし、垂直解像度480という数字が同じなので、解像度変換による画質劣化(インターレースに対して都合が悪い)を避け、こちらを固定すると考えると、DV解像度を711×480に変換(720から左右4.5ピクセル切捨て)してから、640×480で書き出すという手もあります。

参考資料:
トランジスタ技術 2004年7月号「わかる!ディジタル・ビデオ信号入門」今村元一著
※トランジスタ技術のこの号のSDIとDVIに関する記述は圧倒です!!筆者はこれが教科書でした。