こんにちはニコニコ
 
10月28日より開催していた第32回東京国際映画祭が11月5日で閉幕。コンペティション部門に出品されていたノルウェーの『ディスコ』と、デンマークの『わたしの叔父さん』を鑑賞しました。全く異なる趣の2本。共通するキーワードは、「抑圧」「抑制」でしょうか。北欧映画の醍醐味ともいえる考えさせられる内容でした。劇場公開に期待!

少し間が開いてしまいましたが、『ディスコ』上映後の記者会見と、『わたしの叔父さん』上映後に設けられていたQ&Aの模様をお届けします。(多少ネタバレありだと思いますがご了承ください)


(左から)ヨールン・ミクレブスト・シーヴェシェン監督と主演女優のヨセフィン・フリーダ・ペターセンさん
 
密閉された社会、抑圧されていることに着眼。
宗教団体に潜む疑問をぶつけた作品。

『ディスコ』からは、ヨールン・ミクレブスト・シーヴェシェン監督と主演女優のヨセフィン・フリーダ・ペターセンさんの2人が登壇しました。

主人公は、フリースタイルダンス競技世界チャンピオンのミリアム。スランプに陥ってから、新興宗教団体を運営している家族から強く信仰を迫られ、自身は疑問を持ちながら、人々が極端に宗教にのめり込んでいく現象を、ミリアムの視点を通じて描いた映画。
 
日本でカルト集団や宗教を映画で描くときは、フィクション的に描きがちだといいます。宗教、信仰という、デリケートな題材を扱った事に対して、司会進行役の笠井アナは、「まるでドキュメンタリーのような、とてもリアルで迫力のある映画ですね」と驚き、「制作にあたり、どんなリサーチをしたのですか?」と質問しました。

「脱退した人に聞いたり、集会に行ったりして、いろんな宗教団体をリサーチしました」と監督。本作に登場する3つの宗教団体の中で、2つは実際にある団体をもとに描き、もう1つはフィクションだけれど、実際に起きたエピソードをもとにしたそうです。(元信者の体験をもとにした結構リアルに怖いシーンあります……)
 
公開後、やはり多方面から反響があったとか。ただ監督は、ありのままにできない人がいたり、至らない人間だと追い詰められた状況になっている人がいることに対して、宗教団体の組織の在り方、密閉された社会、抑圧されていることに目を付け、その疑問を本作にぶつけました。彼らはリベラルと言いながら、ものすごく保守的だったり、いろんな矛盾を感じたそうです。本作にまつわるパネルディスカッションなどで、宗教団体の信者に、疑問を投げかけてははぐらかされたり、インターネットで厳しいことを書かれたりしたそうです。
 

ノルウェーの人気TVドラマ『SKAM』でブレイクしたヨセフィンさんは、ハードで高度なフリースタイルダンスのチャンピオンでありながら、悩める難しい役どころの主人公ミリアムを好演。「監督がこの映画を通じて伝えたいメッセージに共感。何と言っても、ヨールン監督と組めるというのが一番やりたかったから」と主演オファーを受けたときのことを話し、監督もまた、「ヨセフィンの演技は表現に幅があって、一緒に仕事ができてラッキーでした」と絶賛。
 
本作に出てくるフリースタイルダンスは、宗教の人達から見たら世俗的なもの。そして新興宗教団体の名前が「フリーダム」。「自由」というのは一体どういうことなのかを考えさせられます。
 
家の中でも、外でも、苦しみから解き放たれたい。救いの道を求めているのに、結局抑圧されている主人公。最後まですっきりしないミリアムの表情がすべてを物語っている気がしました。一部とはいえ、実際に抑圧されている大人・子供がいること、そういった世界があることを描いています。

ちなみに、「『ディスコ』というタイトルですか?映画に入り込みやすくしてみたんです」という監督。でも実は、深~い闇へのアプローチ!?ヨールン監督、すっかり騙されましたよ(笑)
 

©2019 TIFF
 
●将来を担う若手俳優に贈られる「東京ジェムストーン賞」を受賞!
ヨセフィン・フリーダ・ペターセンさんコメント(ビデオメッセージ)
「東京、そして、東京国際映画祭をとても楽しめました。ここに出席できないことがとても申し訳なく、そして悲しく思います。でも、このような名誉ある賞をいただけて本当にありがとうございます。また、ディスコを見ていただいて、感謝いたします」
 
『ディスコ』(ノルウェー)※アジアン・プレミア
監督:ヨールン・ミクレブスト・シーヴェシェン
2019/93分/ノルウェー語、英語/英題:Disco
 
(左から)フラレ・ピーダセン監督、主演女優のイェデ・スナゴーさん、プロデューサーのマーコ・ロランセンさん

デンマーク映画『わたしの叔父さん』は、フラレ・ピーダセン監督、主演女優のイェデ・スナゴーさん、プロデューサーのマーコ・ロランセンさんの3人が登壇。Q&Aの進行役は矢田部PDです。

体の自由が利かない叔父と姪で営む小さな農家が舞台。黙々とした日々を過ごす中で、獣医になりたいという夢を持つ姪が選択する道とは……。
 
本作が長編2作目となるフラレ監督は、「観客の方と一緒に見るのは初めて。こんな大きな映画祭で上映していただき、とても嬉しいです。リアクションからして……楽しんでもらえたような気がします」と笑顔。イェデさんとマーコさんは、「たくさんの“変な”質問、期待しています」とワクワクしている様子でした。
 

好演する“叔父さん”は主演女優の実の叔父!
大切な人を静かに
想う、
情感あふれる人間ドラマ。
 
「この物語は、ユトランド半島南部が舞台。実は登壇している3人ともここの出身。この地を舞台にしたいと思っていました」と監督。また、「自分たちは勉強がしたいと都会に出ました。でも、残る人もいる。それはなぜか。そこにあるドラマを描きたいと思った」と、本作を作るきっかけを披露ました。
 
イェデさんのために脚本を書き上げたという監督。実は、登場する“叔父さん”は、イェデさんの本当の叔父さん。しかも、舞台も叔父さんの農場で、監督も実際に住み込んだそうです。本作には登場しませんが、実は叔父さんのお父さん(90歳代)も一緒に住んでいるとのこと。

「私の叔父に密着して取材をしていたら、監督が叔父をとても気に入って。起用されることになったのです」と告白。実の叔父さんとの共演は、「初めは違和感がありました(笑)」とイェデさん。「でも、日々の食事やお茶などを毎日繰り返しているうちに、以前より叔父と親密になれました」と笑顔。
 
あまりにも自然体な叔父さんの演技。物語は脚本どおりだったのでしょうか?台詞部分は99%台本どおりだそうですが、時折即興で生まれた良いシーンは採用したそう。例えば、台詞が早めに終了してしまって、持て余してしまった時間が、ぎこちない空気感を生み、絶妙な気まずさが出ていたシーンなど。また、ビスケットを食べるところも、叔父さん本人任せだったとか。
 
インスピレーションとなった作品は何か具体的にあったのかという質問には、特になかったようですが、「アジアの作品も好きで、多くの名作を見ている」とフラレ監督。日本映画も好きで、特に小津作品のファンだとか(北欧の監督さんは小津作品がお好きな方が多いですね!)。「小津監督作品は、台詞少なで、映像で心に直に訴えてくる。是枝監督の家族映画も好きですね」とのこと。
 
登場人物もみんな愛あふれるキャラクターで、不器用にも、誰かが誰かのことを必死に想っているのが、台詞がなくても、じんわりとこみあげてくる。そんな愛おしい物語です。
 
©2019 TIFF
 
●最優秀作品賞にあたる「東京グランプリ/東京都知事賞」を受賞!
フラレ・ピーダセン監督コメント
「本当に光栄で、心臓がバクバクしています。この映画はインディペンデントの小さな作品で、少人数のクルーで一生懸命に撮影したものです。コンペティションに選んでいただいただけでもうれしかったです。この作品をコンペティションに選んでくださった皆様、優しく おもてなしてくれたスタッフの皆さまの愛を感じました。滞在中は素敵な時間を過ごさせていただき、ホテルでも素晴らしいおもてなし の精神を感じました。 おそらく舞台となった地域で撮影するのは初めてではないかと思います。デンマークの皆様にも感謝いたします。そして最後になりますが、観客の皆様にも感謝申し上げます。この映画を観てくださった、素晴らしい観客の皆様が素晴らしいリアクション・質問をし て下さいました」
 
また、審査委員長のチャン・ツィイーさんは、「この映画は、感動的な詩のような語り口で我々に穏やかに物語ってくれました。監督は抑制的で繊細なカメラワークをもって、忘れ去られる人間の情感をとても力強く表現していました」と、『わたしの叔父さん』にコメントしています。
 

『わたしの叔父さん』(デンマーク)※ワールド・プレミア
監督:フラレ・ピーダセン
2019/105分/デンマーク語/英題:Uncle
 
第32回東京国際映画祭
期間:2019年10月28日(月)~11月5日(火)
会場:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区) 、東京ミッドタウン日比谷 日比谷ステップ広場(千代田区) 他
http://www.tiff-jp.net