こんにちはニコニコ

北欧区では北欧の文化的な話題を中心に、いろんなジャンルの内容をお伝えしていますが、振り返ってみると、映画を紹介することがかなり増えてきました。

巧みなストーリー展開にドキドキし、丁寧なディテール、映像の美しさに惹かれ、独特なユーモアで、ひっそりと存在感を出す北欧映画。あえて直視したくない、向き合うことを拒みたくなる社会や人間の一部をあぶりだし、影にスポットを当て、見ている人に疑問を投げかけたりするのが特徴です。

たとえフィクションであっても、どこか深い部分で繋がりを見出したりできる面白い機会だと感じるので、北欧区でも映画を紹介する比率が高いのかなと感じています。

7月21日まで埼玉県川口市にて開催されていた「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019」。コンスタントに北欧の映画がノミネートされ、評価されている映画祭の一つ。近年、徐々に日本でも劇場公開が増えてきたとはいえ、まだまだ全ての北欧作品が劇場公開されているわけではありません。(北欧区が取材した分にはなりますが)少しでも多くの方々に、北欧映画、その魅力をお届けできたらと思います。
 
本日は、イラク移民の両親のもと、デンマークに生まれたウラー・サリム監督による長編デビュー作で、見事監督賞に輝いた『陰謀のデンマーク』をQ&Aと共にご紹介!
 
『陰謀のデンマーク』は、コペンハーゲンで爆弾テロが起きてから一年後のデンマークという設定でスタート。過激な発言で移民排斥を訴える極右政党が選挙で勝利。移民や難民、ムスリムなどへの嫌がらせや襲撃が行われるようになります。そのことに黙って見てはいられないと、力で反発する対立グループが現れます。将来の道を決められずにいた19歳のザカリアもグループに加入。そこである行動を起こすことを迫られます。そして衝撃のラストへ……。近年、世界的に高まっているナショナリズムの現実を映し出した政治サスペンスです。
 
ウラー・サリム監督は、これまでは数多くの短編映画を制作し、『Our Fathers’ Sons』(15)でロッテルダム国際映画祭に招待を受けています。また、デンマーク国立映画学校の卒業制作『Land of Our Fathers』(17)は、2017年のドバイ国際映画祭で湾岸短編コンペティション部門のグランプリを受賞。今回、日本には初来日です。

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上映後のQ&Aでは、特に今のヨーロッパ社会で掲げられている話題として、あまりにもリアリティのある内容に圧倒、魅了された観客から、多くの手が挙がりました。
 
「まさか日本の映画祭で上映されるとは、思いもよらなかった」と感慨深げに話していたサリム監督。まずは、この映画を作った理由を聞かれました。

――なぜ、この映画を作ったのか?
 
「その国に生まれたら、その国の人間として責任を持つべき。映画で描かれているような暴力が解決策ではないということです。これはもちろんフィクション。極端な思想を持った人たちが幅をきかせて、暴力をふるい合うというのは非常にバカげています。暴力は何も解決しないこと。それを議論しあうきっかけになったらと思い、あえてこういった映画を作りました」
 
「過激な思想への警鐘を鳴らすために映画を作った」という『ウトヤ島、7月22日』を手がけたノルウェーのエリック・ポッペ監督にも近い考えで、サリム監督も本作に挑んだ模様。不安な怒りを煽るような一部の過激な思想、それをまるで正しい意見だと支持する人への広がりを懸念しています。
 
また本作では、宗教問わず、中立で知的な立場にいる、分別のある人でさえも、極端な方向に行ってしまうこともある、ということを描いているとサリム監督。それは例えば、自分の家族や大切な人が身の危険に晒されたり、不条理なことに直面したときなどに起こりうるということです。
 

©Henrik Ohsten
 
デンマークというわけではなく、社会全体に、ヘイト、憎悪、恐怖が蔓延していて、極端な思想がはびこっている。そういったものが生まれることに対しての懸念。本作でテロ1年後の状況を描いているのは、どういう解決策が良いのか、どういう対処をすればいいのかを学ぶため。
 
「実は、映画の中で極右政党の政治家が発言している言葉のうちいくつかは、実際にデンマークの政治家が発言した言葉を引用している」と監督。(その実在する政治家が気づいたらしく、この映画を問題視して議会で取り上げたそうです。監督、なかなか大胆ですね!でも、議論が生まれたので結果オーライということのよう)

――どうすれば、世の中が良くなると思う?

どうすれば、少しでも世の中が良くなると思うかの質問で、「ダメなことだけど、理解はできる。でも、その行動は果たして合っているのか、考えることが大事。人の話に耳を傾けて、何が起きているのかを把握すること」という監督の言葉も印象的でした。
 
情報がない、または偏った情報しか耳に入らない状態で、分からないから常に不安や恐怖から、過激な言動や行動を起こしてしまう。極端な思想が、普通の人でさえ、最悪の行動を起こさせてしまう。これはどの国、社会にいても、あり得ることだということです。


©SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019

クロージング・セレモニーで監督賞を受賞したサリム監督は、「非常に温かく、親切に迎えていただいた。人を敬う日本の文化が世界に広がっていけば」と日本の印象を話しました。
 
また作品について、「デンマークでこの作品を作れたことを誇りに思う」とサリム監督。「本作は、いわゆる最悪の事態を描いているわけですが、あくまでもこういったことも起こり得なくな いということを描いたつもりです。観客のみなさんに考えていただきたいのは、どのようにしてその中から最善の道を見出すかということだと思います。映画にはそういった力が宿っていると考えています」と力を込めました。
 
現時点での国内での劇場公開は未定ですが、とても見ごたえのある作品です。チャンスがあればぜひ!
 

©Henrik Ohsten

陰謀のデンマーク<ジャパン・プレミア>
監督:ウラー・サリム
出演:ザキ・ユーセフ、ムハンマド・イスマイル・ムハンマドほか
2019年/デンマーク/119分/英題:Sons of Denmark
©Henrik Ohsten
 
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019 ※終了しました
期間:2019年7月13日(土)~21日(日)
会場:SKIPシティ映像ホール/多目的ホール(埼玉県川口市上青木 3-12-63)ほか
http://skipcity-dcf.jp/