もわあん

 トーマの口からあくびが出ました。
 それに気づいたアキちゃんが、さみしそうな顔をしました。
「ねむいの?」
「うん、ぼく、もうかえりたい」
 トーマは、手をはなして、かえりみちにつきました。
「そう…じゃあ、バイバイ」
「アキちゃんは?」
「私はいいの」
「ねむくないの?」
「おきてたいの」
「そうなの?じゃあ、ばいばい」
「あ、ねえ!」
 女の子が走ってトーマの元に来て、手をにぎりました。
「ありがとう」
「え?」
「わたしに会いに来てくれて」
「え?ぼくはたまたまおきて、それに…」
 トーマが言いかけたのを、女の子がさえぎって言いました。
「ううん。きっと会いに来てくれたの。わたし、ずっとよんでたもの。だれでもいいから会いに来て、って」
「そうなんだ。よんでくれて、ありがとう。たのしかったよ」
「それでね、おねがいがあるの」
 
 ぎゅ

 アキちゃんは、にぎる手に力をこめました。
「なあに?」
 トーマは首をかしげて、聞きました。
「また冬が来たら、
こうして
いちにちでもいいから
おきて。
それでね、
わたしみたいにだれかをよんでる子がいると思うの。
そしたら、
会いに行ってあげて
会って
おはなしして、
あそんであげて。
その子はぜったいうれしいから」
「う、うん。いいけど。でも、それってアキちゃんのことだよね。だったら、春になったら会おうよ」
 
 にっこり

「やくそくよ、トーマ」
「うん!もちろん!」
「やくそくよ!ぜったいよ!」
「うん!ぜったい!やくそく!」
 
 ぱ

 ふたりは手をはなしました。
「じゃあ、バイバイ、トーマ」
 アキちゃんは小さく手をふりました。
「じゃあね」
 トーマも小さく手をふりました。
 トーマは、このお別れのあいさつをした時、ずうっとこの子とともだちだったような気がしました。
 ようちえんのおともだちと、こうやってお別れして、そのときから、
「はやくあしたになってほしい」
と、あした会うたのしみに、わくわくしながらその日ののこりをすごすのです。
それと同じように、今、トーマははやく春になってほしいきもちでいっぱいです。
 トーマは言いました。
「ぼくたちともだちだね」
「きっと、そうね」
 トーマはほほえんで、そのばをさりました。
 少し走ってふりかえると、アキちゃんが大きく手をふっていたので、トーマも大きく手をふりかえし、また走り出しました。

(つづく)