妊娠初期や手術の前には様々な感染症の有無を血液検査で調べるのですが、その検査の中にHIVの検査も含まれています。
HIVというウィルスに感染していると、将来的にAIDSという病態が発症して死に至るため、HIVは非常に怖い感染症というイメージがあるのですが、最近では非常に効果的な治療薬も開発され、早期に治療開始できれば一般的な人と同じ程度の寿命が期待できるような時代になりました。
早期発見が非常に大切なHIVですが、一般的には「スクリーニング」と呼ばれる検査が行われています。
これは、陽性の方を絶対に見逃さないように、多少精度は落ちるのを踏まえた上で、陰性の人もいくらか含めて少し多めに拾い上げる検査方法となります。
そのため、スクリーニング検査で陽性に出ても、実際には陽性ではない、ということがよくあるのが、スクリーニング検査の特徴でもあります。
しかし、「スクリーニングで陽性」という結果は、本当に感染しているかも知れない可能性も含まれるため、非常にストレスフルな結果となります。
もし、スクリーニングで陽性に出た場合には、更に精密検査を行なって、本当に感染しているかどうかを調べるのですが、その検査の流れに関して非常に興味深い報告を見つけたのでご紹介したいと思います。
HIVのスクリーニング検査での偽陽性(本当は感染していないのに陽性が出てしまう状態)は、妊娠や自己免疫性疾患、感染症などが原因で生じる可能性があります。
この論文で検証されているのは、妊娠中に接種したワクチンの影響でスクリーニング検査も確認検査も偽陽性に出た珍しいケースについてです。
対象は34歳の経産婦さんで、妊娠35週2日にTdapワクチンを接種しました。
※Tdapワクチン: 破傷風、ジフテリア、百日咳に対するワクチンで、アメリカでは妊娠中の接種が推奨されています。日本でも推奨したいワクチンですが、まだ認可されていません・・・
以前にも以下のブログで何度か取り上げているワクチンです。
今回の論文で検証している妊婦さんでは、妊娠36週2日のHIVスクリーニング検査と確認検査で陽性が出たのですが、妊娠36週5日では陰性になっていました。
以上のことから、1週間ほど前に接種したTdapワクチンの影響でHIVスクリーニング検査・確定検査が偽陽性になったと診断されました。
今回のケースではTdapワクチンによる偽陽性でしたが、結論としてそれ以外のワクチンや免疫に関する薬によって偽陽性が起きる可能性は十分あり、そういった原因が疑われる場合には短期間での再検査が必要である、と締め括られています。
現在の日本では、妊娠中に接種する可能性のあるワクチンとして、コロナワクチン、インフルエンザワクチン、RSウィルスワクチンがあります。
これらのワクチン接種直後にHIVの検査をする機会があれば、スクリーニング・確認検査ともに偽陽性となる可能性を踏まえて結果を解釈していく必要があると言えますね。
