そこで、今回は内科的な治療に関する説明をしたいと思います。
まず、子宮腺筋症というのは子宮内膜症の一種で、子宮本体が分厚くなってしまう状態を言います。
その結果、生理痛や生理の量が増える原因となったり、ひどくなると生理以外でも痛みが出る原因となります。
そのため、何らかの治療によって生理痛をコントロールしたり、生理の量を減らす必要が出てきます。
特に副作用のリスクが高くない方であれば低容量ピルで症状をコントロール出来ることもあるのですが、副作用リスクが高い方はピルが使えない事も。
ミレーナという選択肢もありますが、出産経験のない方だと挿入時の痛みがあったり、そもそも体の中に何かを入れる事に抵抗がある方もいます。
ディナゲストというホルモン剤も生理痛や生理の量の多さをコントロールするには良い薬ですが、子宮腺筋症の方が内服すると大量出血する可能性もあります。
そんな時にはGnRHaという薬で一時的に閉経状態に持ち込み、その後にディナゲストに繋げるという方法もあります。
そこで、今回ご紹介する論文は、ののGnRHaという薬だけで長期間経過をフォローした報告についてです。
http://www.endometriosis.gr.jp/non-member/kaishi/kaishi30pdf/04-endo30-sympo1_2.pdf
こちらの論文では、平均年齢43歳の子宮腺筋症の患者さんに、上記で説明したGnRHaという点鼻薬を使って閉経状態に持ち込み、痛みのコントロールを試みています。
まず、GnRHaという薬の副作用についてですが、1つは閉経状態に持ち込むため、ホットフラッシュに代表されるような更年期症状が出ること。そして、もう1つは女性ホルモンが低下することによる骨密度の低下、骨粗しょう症が問題になってきます。
ホットフラッシュに関しては、血液中の女性ホルモンであるエストラジオールが40pg/mlを切ると症状が出ると言われていて、骨密度を維持するためには20pg/μl以上が必要と言われています。
また、子宮内膜症は40pg/μl以上で悪化すると言われているため、理想的にはエストラジオール の値を20〜50pg/μl程度に抑える必要が出てきます。
そこで、GnRHaという点鼻薬を用いて、エストラジオールの値をコントロールすることになります。
GnRHaには注射や内服薬もあるのですが、細かい量の調整ができず、一方で点鼻薬であれば点鼻回数をコントロールすることで、容易に調整が可能になっているのです。
実際の治療では、最初は規定通りの量で点鼻薬を開始します。3ヶ月ほどした所で、エストラジオールの値を測って20〜50pg/mlに収まるように徐々に点鼻薬の量を減らしていきます。
ちなみに点鼻薬としては、スプレキュアとナサニールという薬があるのですが、スプレキュアの方がやや作用が弱いため、まずはスプレキュアで治療を開始し、それでも生理が来てしまう方にはナサニールに変更する治療法となっています。
平均して2年間ほど薬を使って、最終的な点鼻回数は1〜3回/日、エストラジオールの値は37.5pg/mlでした。
投与1年後の子宮腺筋症からくる痛みは、10段階中4.8から0.6に減少し、1日当たりのホットフラッシュの回数も、注射によるGnRHaの時の3.8回から1.1回に抑えられていました。
この効果に関しては投与2年後にも継続して認められました。
一方で骨密度の減少率は6ヶ月で0.96%に抑えられていました。閉経前の骨密度減少率は年間0.94%、閉会後の骨密度減少率は年間2.75%という報告があるため、この治療での骨密度減少率はそれほど問題にならないと思われます。
ただし、中には6ヶ月で2.2%減少した方もいたため、やはり半年ごとに定期的な骨密度測定は必要と言えそうです。
このような事に気をつけながらエストラジオールの測定を続け、GnRHaの投与量を最も少なくしてもエストラジオールの値が20pg/mlを切った場合には、薬のせいで女性ホルモンが抑えられているのではなく、体の中から自然に出てくる量が少なくなっている、つまり自然閉経が近いとして、GnRHaを中止し、そのまま閉経に持ち込める可能性が出てきます。
一点だけ現実的な注意点があるとすれば、都道府県によっては、この治療が保険で認められない可能性があること、、、
もともとGnRHaという薬は骨密度が低下する副作用を考えて原則的に半年までという使用制限があります。
そのため、半年を超えて使用した場合に保険で認められるのかどうかは、それを審査する医師次第。全国的にその判断基準が統一されていればいいのですが、実際には判定する医師に依存していて、極端な話、審査する医師が年度によって変わった時に、今まで認められていた治療や検査が急に認められなくなることもあるのです、、、全く同じ病院で全く同じ患者に対してであっても、、、
ですので、あくまでこの治療は「うまくいけば」保険で治療できるかも、という選択肢になってくることをご理解いただければと思います。