いきなり刺激的な表題で攻めてしまいましたが
故米長永世棋聖の文章のタイトルです。
しかも、元々は塚田正夫先生の口から発せられたものです。
これ以上あれこれ言わず、紹介しましょう。
昭和56年『小説新潮スペシャル』からです。
『将棋とセックス』
「将棋とセックスはよく似ている」
これは故塚田正夫先生の述懐である。
初めてこのセリフを聞いたときはその意味が解らず
うまそうな事を言うと思ったが、即興的な一言と聞き流してしまった。
小生も三十半ばを過ぎ、ようやくにしてそれが至言であることに気がついた。
初心者同士の対局を観ていると、お前はお前、オレはオレという将棋が多い。
麻雀にしても弱い者ほど自分の手しか見ていないとしたものだ。
将棋はセックスである、という境地には未だ達していないが、
私は痴話喧嘩の時の男のような気持ちで指すように努めている。
相手はキャンキャンわめいたり、イヤな所、イヤな所と攻め込んでくる。
こんな時は全く無視して我が道を行くというのも一法だが、
やはり「ああそうか、ハイそうですか」と相手になるほうが、
結果が良い事が多いものだ。
要はどこまで相手の言いなりになっていられるか、どこまで我慢
できるかが勝負である。将棋の要諦は忍の一字であると言い放った
先生もおられた。始めから相手を完封しようとするのはよろしくない。
攻めたいものには攻めさせるのが良い。つぶれない見通しを立てて
攻めさせ、面倒を見るだけ見て最後に勝ちに持ってゆく。
こんな勝ち方は最高の勝ち方と言える。(以下略)
「将棋の極意とユーモア、そしてちょっとスケベェ」
米ちん一流の文章としてご紹介しました。