Talazoparib in Patients with Advanced Breast Cancer and a Germline BRCA Mutation
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa1802905
2024年1月にファイザーから新しいPARP阻害剤「ターゼナ®」が承認取得されました。
一般名はtarazoparibです。
存在は知っていましたが、論文は読んでいなかったため読みます。
Oraparibとの使い分けをどうするのやら。
ショートサマリー
ポリ(アデノシン二リン酸リボース)阻害剤であるタラゾパリブはBRCA変異陽性進行乳がんに抗腫瘍効果を示しました。
方法は、phase 3のランダム化試験です。
遺伝性にBRCA1/2変異がある進行乳がん患者さんを、タラゾパリブ群と主治医選択化学療法(カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、ビノレルビンのいずれか)を2:1で割り付けます。
Primary end pointはPFSです。
431例中287例がタラゾパリブ群、144例が主治医選択治療群。
PFS中央値は8.6ヶ月 vs 5.6ヶ月で有意差を持ってタラゾパリブ群が長いという結果でした。
HR 0.54; 95%CI 0.41 to 0.71; P<0.001.
OSはHR 0.76; 95% CI, 0.55 to 1.06; P = 0.11で有意差無し。
奏効率は62.6% vs 27.2%とOR 5.0; 95% CI, 2.9 to 8.8; P<0.001。
Grade 3-4の血液毒性はタラゾパリブ群で55%、主治医選択群で38%。
grade 3の非血液毒性はタラゾパリブ群で32%、主治医選択群で38%でした。
患者さんからの報告アウトカム(QOLと臨床的に意義のある病状悪化)もタラゾパリブ群が有効でした。
結語としてBRCA変異陽性進行乳がんにタラゾパリブは有効でした。
BRCA変異陽性乳がんは、本来DNAの損傷を修復してくれるBRCAの機能が失われているため、
非常にDNAが不安定な状態になっています。
DNAはかなりの頻度で切断が起こっており、二本鎖両方が切断されることはさほど多くないですが、
一本鎖は1細胞当たり1日10000回ほど起こっているようです。
それを修復してくれるのがPARPですが、ここをブロックしてしまうのがPARP阻害剤です。
そうすると一本鎖切断が修復されず、どんどん二本鎖切断になっていきますが、
この二本鎖切断をBRCA変異陽性では修復できないため、
細胞は滅茶苦茶になりアポトーシスを来します。
詳しくはこのブログをどうぞ。
それ以外にもPARP阻害剤はもう1つ作用をしています。
一本鎖切断が起こるとPARPさん自体は切断が起こった部位にくっつきます。
くっつくと、そこを足場に修復のタンパクを持ってきてくれて、修復を始めます。
ただPARP阻害剤に機能を停止させられたPARPさんは、
声が出なくなり、塩基除去修復のタンパクを呼び出せなくなります。
さらに、ここに捕らえられ、ここから逃げられなくなります。
なので、修復のためのタンパクが全然くっつけなくなり、
一本鎖切断の修復はさらに阻害されることになります。
これがPARP trappingです。
タラゾパリブはこのPARP trappingが特徴的らしく、
他のPARP阻害剤に比べ阻害作用が100倍ほど強く起こると言われています。
(100倍ってのが嘘っぽいけど論文に書いてありました…)
Phase 1試験では50%の奏効率と86%の臨床有用率が得られ、
副作用としてはリムパーザ同様、貧血、血小板減少、疲労が報告されています。
Phase 2試験(ABRAZO study)ではプラチナ製剤が奏効した症例で21%。
プラチナ製剤の使用歴がない症例で37%の奏効率でした。
このphase 3試験(EMBRACA study)ではタラゾパリブと医師選択の化学療法で比較が行われました。
18歳以上で進行、もしくは転移性乳がん患者さん。
GermlineのBRCA 1 or 2の変異は必須です。
3レジメン以上の化学療法を受けた場合はエントリー出来ません。
タキサン、アンスラサイクリンどちらか、または両方の治療歴が必要(禁忌で無い限り)。
また周術期のプラチナ使用は許容されていて、治療終了後6ヶ月以上経過している必要があります。
進行乳がんに対してプラチナ製剤が使用されていて、PDになっている場合はエントリーできません。
ホルモン陽性の場合の内分泌療法はいくら入っていても大丈夫です。
脳転移は落ち着いていればエントリーOK。
振り分けは2:1です。
タラゾパリブは1mgを毎日。食前食後どちらでもOK。
クロスオーバーは許容されていません。
Primary endpointはPFS。
30週目までは6週間毎にCTで評価。
その後増悪がなければ9週毎が許容されています。
SecondaryにOS, CBR, 治療奏効期間があてられ、またQOLをEORTC-QLQ-C30という指標で測定しています。
OSについてはkey secondaryとなっており、
PFSが達成できたら統計解析可能なgate-keeping法が用いられています。
結果ですが、冒頭の通り431例中287例がタラゾパリブ群、144例が主治医選択治療群。
主治医選択の化学療法は44%がゼローダ、40%がハラヴェン、10%がジェムザール、7%がナベルビンでした。
主治医選択の化学療法は18人が同意を撤回。タラゾパリブは1人が同意撤回をしたようです。
年齢中央値は若干若めで45歳-50歳。
見てみるとTNBCよりホルモン陽性の方が若干多い。
その結果を反映してかBRCA2陽性が多めですね。
効果については観察期間中央値11.2ヶ月で、
PFS中央値8.6ヶ月 vs 5.6ヶ月で有意差を持ってタラゾパリブ群が長いという結果でした。
HR 0.54; 95%CI 0.41 to 0.71; P<0.001。
タラゾパリブ群の37%は1年間増悪なし、主治医選択群は20%が1年間増悪がありませんでした。
サブグループではきれいにタラゾパリブベターです。
こんなきれいになるんすね。
プラチナの使用歴がある場合は1をまたぐというくらい。
OSのイベントはタラゾパリブ群で108例、主治医選択群で55例発生。
OSは22.3ヶ月 vs 19.5ヶ月。HR 0.76; 95% CI, 0.55 to 1.06; P = 0.11で有意差無し。
もう少し期間延ばせば出るかもしれませんね。
後治療については両群約65%くらいで行われてました。
主治医選択群では試験後に18%がPARP阻害剤を使われていました。(あかんとちゃうんかい。オラパリブはええんか?)
奏効率は62.6% vs 27.2%とOR 5.0; 95% CI, 2.9 to 8.8; P<0.001。
タラゾパリブ群の5.5%でCRが得られていました。
一方で主治医選択群にCRなし。
治療奏効までは2.6ヶ月 vs 1.7ヶ月と効き始めるまでは少し時間がかかるようです。
臨床的有用率についても68.6% vs 36.1%でタラゾパリブ群の圧勝です。
治療奏効期間は5.4ヶ月 vs 3.1ヶ月でした。
安全性については重症はともに3割程度。
Grade 3以上の血液毒性はタラゾパリブ群で55%発生しています。
非血液毒性、つまり日常生活関連については32%と38%で同じくらいです。
有害事象による投与中止はタラゾパリブ群で5.9%、主治医選択群で8.7%。
タラゾパリブは開始後半年までに投与中止、または減量を経験しています。
それ以降は減量や中止は少なくなるようです。
あと肝毒性はタラゾパリブで20%とやや多かったようです。
Disucssionです。
リムパーザを使ったOlymiAD試験ではPFS HR 0.58(95%CI 0.43-0.80)でした。
この試験ではHR 0.54ですので似たような感じです。
その他違いが書いていますが、この試験ではPSがやや悪い患者さんが多く登録されていました。
PS0はOlymiAD 72.2%でこちらは53.3%。
ホルモン陽性が多いなーと思っていましたが、
OlymiAD試験見返してみたらホルモン陽性は約半数でした。
ただBRCAは1の変異が多くなっています。
Limitationに書いてあったのが、この試験は2重盲検になっていて、
どちらの治療薬が入ったかはわからないようになっているのですが、
点滴している場合は簡単に主治医選択群に入ったことがわかってしまいます。
なので18例の同意撤回があった様子。
臨床試験って難しいなー。
あとは主治医選択群にプラチナを入れていなかったのは実臨床と異なるとありました。
日本ではプラチナがICIと併用じゃないと使えないため、あまり気にしなくても良い感じです。
リムパーザとの使い分けについては言及されていませんでした。
正直このデータからだけでは、どっちでも変わらないかなーという印象。
PARP trappingがこちらの方が強いと言うことを考えると、有効なのかもしれませんが直接比較はできません。
でもリムパーザ耐性→タラゾパリブみたいな使い方は正直難しいでしょうね。
耐性機序にもよりますけど、作用しているところは同じなので効果は望み薄だと思います。
うーん、なぜこのタイミングで適応が通ったのであろうか。
他の論文も読まなきゃだめかも。