痴漢騒動から 1ヶ月ほど経ったころ。

 

優しい(?) 友のおかげで、 ひよ子が痴漢を追いかけたことは 社内ですっかり 有名になっていた。

 

 

 

帰り際に みんながかけてくれる声は、

 

「暗いから 気をつけて帰れ」

 

ではなくて

 

「痴漢に遭う前に帰れ。 遭っても 追いかけるな!!

 

という具合に すっかり内容が変わってしまっていたのだ。

 

私 「ハイ……。 お先に……。」

 

 

 

追いかけるなって言われても、 あの時は反射的に 足が走ってたんだし……。

 

確かに追いかけて捕まえても、 ねじ伏せられる腕力は 到底無いんだけどさ……。

 

 

 

とぼとぼと、 人気の無い 一本道を歩くひよ子。 

 

先月の今頃は、まだ明るかったのになあ。

 

だんだん 薄暗くなってきたなあ。 

 

あれから 一回も あの痴漢に遭わないけど、 もういなくなったかな。

 

暗くなってくると、 出やすいよねえ、 ああいうの……。

 

 

 

ぼんやりと そんなことを考えながら坂を上る。 

 

コンビニの前を通り過ぎれば、 スーパーまで あと少しだ。 

 

ああ そうそう、 あの自販機の前で 痴漢に遭ったんだよね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

むにっドキドキ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私 「!!!!!!????」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚えのある感触!!

 

ハッと横を見ると、 自転車に乗った あの男。 あいつだ! あの、 一月前の 痴漢だ!!

 

 

 

「痴漢に遭っても、追いかけるな!!」

 

 

 

そんな忠告は どこふく風。 ひよ子は再び その男に向かって 叫んだ!

 

 

 

 

 

私 「ちょっとアンタ!!むかっ 

   この前も 痴漢したでしょっ!!」

 

 

 

 

 

びっくりしたように振り向き、 にやりとこちらを見て笑う 痴漢。

 

ひよ子よりも 若そうな感じだ。 

 

自転車の後輪に、 痴漢が羽織っているシャツが 巻き込まれそうだなと 頭の片隅で チラッと思った。 

 

そして 再び逃げる痴漢!

 

再び追いかける ひよ子!!

 

……しかし 追いかけるもむなしく、 当たり前だが 前回同様 逃げられてしまった……。

 

 

 

 

 

もーう 許せない! もおぉーう 怒った!!むかっ

 

 

 

 

 

怒りと悔しさが抑えきれないひよ子は、 勢いに任せて、 そのまま交番に飛び込んだ。

 

ちなみに 一本道をそのまま線路の方に進み、 踏切を渡れば 100mほどで交番に着く。


ただ、 道に角度がついていることや 交番が少し奥まったような立地にあるために、 

 

痴漢がうろついていたあたりは ここからは なかなか見えないのだ。

 


 

交番に入ると、 お巡りさんが4人ほど なにやら話し込んでいた。

 

二人は フツウに交番にいる感じのお巡りさん。

 

あと二人は、 ちょっとコスチュームが違って、 交番勤務というより 緊急のときに出てくる感じだ。

 

この大きさの交番に対して、 お巡りさんが4人? ちょっと多いんじゃない? 何かあったのかな。

 

お巡りさん 「ハイ、 なにか?」

 

そんなことを考えて 一瞬止まっていたひよ子に、 フツウのお巡りさんが 声をかけてくれた。

 

 

 

私      「あ、 あのー、 すぐそこで 痴漢に遭ったんですけどー」

 

途端に 4人の間に流れていた空気が変わる。

 

お巡りさん 「痴漢? どこで?」

 

私      「すぐそこです、 スーパーの裏のあたり」

 

お巡りさん 「痴漢というと、 どんなことをされたの?」

 

私      「私 歩いてたんですけど、 自転車で追い越しざまに 胸を触っていきました」

 

緊急っぽいお巡りさんが 肩から提げていた無線で 連絡を取っている。

 

お巡りさん 「で、痴漢は 逃げたの? どっちに逃げていった?」

 

私      「スーパーの裏を、 あっちの…、 東のほうに自転車で走っていきました」

 

 


ひよ子が話す内容が、 お巡りさんを通じて 無線でどんどん流れていく。

 

痴漢の服装、 髪型、 体格、 自転車の色、 何歳くらいに見えたか、 何分くらい前だったか。

 

交番に入ったときには 少し治まっていた怒りや悔しさが、 思い出すと再びこみ上げてくる。 

 

早口になりながら ひとしきりの特徴を話すと、 お巡りさんも落ち着いたらしく、 

 

ひよ子に椅子を勧めてくれた。

 

 

 

お巡りさん 「いやね、 実は あなたが遭った痴漢がね、 

ここ最近 よく被害届けが出るやつなんですよ」

 

私      「えーっ、そうなんですか! 私、 二回目なんです! 警察に来るのは初めてですけど」

 

お巡りさん 「あまりに被害が多いんで、 今日からパトロールを強化するところだったんですよ。

 

        今くらいの時間から 被害が多くなるんで、 さあ行こうかって言ってたところでね…」

 

そうなんだ…。 あと10分 早く出てくれたら、 触られなくて済んだのに…。

 

 

 

お巡りさん 「では、 僕たちも行ってきます。 

 

        先ほどの情報を元に、 すでに他の警察官も 動いていますから」

 

私      「あ、ハイ、 お願いします……」 

 

そうして、 緊急っぽい感じのお巡りさん二人は パトカーに乗って 出て行った。

 

そうかあ、 さっきの無線は 応援のお巡りさんへの 情報だったんだね。 

 

 

 

 

一息ついたところで、 長くなりそうので 一旦切ります。