私のブログをご覧いただきまして、有難うございます。
高市早苗総理大臣が誕生しました。内外からさまざまな反応が寄せられています。
その一つだと思われますが、BBC ニュース・ブラジル の鎌田ファチマ記者から、次のような連絡をいただきました。
「現在、『日本の現在の政治における反移民論の重要性』についての記事を執筆しており、飛矢崎先生のインタビュー『飛矢崎雅也氏に聞く世界的な右派の台頭と参政党の躍進』を拝読し、非常に感銘を受けました。その深い洞察と鋭い分析に触れ、ぜひ記事の参考にさせていただきたいと思い、ご連絡いたしました。」
それで、いくつか質問に答えたところ、記事が送られてきました。有難いことです。
このBBC記事は、「日本社会の右傾化と移民政策の緊張関係」を扱いながら、特にブラジル人コミュニティが抱く不安と危機感を浮き彫りにしています。日本にいる移民から、現在の日本の社会・政治状況がどのようなものとして受けとめられているかを知り、今後の日本の政策動向を注視していく上で参考になるので、共有させていただきます。原文はポルトガル語なので、日本語に翻訳しました。
なぜ日本のブラジル人移民たちは新しい首相に懸念を抱いているのか
サナエ・タカイチ氏、オフィスの机の前で日本の国旗の横に立ち演説する
出典:ロイター通信
写真説明:自民党総裁選の期間中、高市氏は移民問題に特化した司令塔の設置を提唱した
著者:ファティマ・カマタ
報告地:東京発、BBCニュース・ブラジル
掲載日:2025年10月20日
日本初の女性首相、誕生
保守派政治家の高市早苗氏(自民党)が10月21日(火)、日本の首相に選出され、日本史上初の女性首相となった。
64歳の高市氏は、衆議院で237票、参議院で125票を獲得し、両院で過半数を制した。
自民党は現在、衆議院の465議席のうち196議席しか持たず、連立相手の公明党(24議席)の協力なしでは過半数の233票に届かない状況だった。
一方、最大野党である立憲民主党は148議席にとどまり、他の野党との統一候補擁立にも失敗していた。
ところが、10月20日(月)に情勢が一変した。維新の党(35議席)が自民党との連立参加を決定したとロイター通信が報じ、再び高市氏に流れが傾いた。
5年で4人目の首相、政治不信の中で就任
高市氏は過去5年間で4人目の日本の首相となる。自民党は相次ぐ政治スキャンダルに揺れ、国民の信頼が低下している。
彼女は近日中に新内閣を発表し、閣僚らは皇居での認証式に臨み、初の閣議を開く予定だ。
今月初め、アメリカのドナルド・トランプ大統領は高市氏の自民党総裁選勝利を祝福し、「すばらしいニュースだ」とコメント。
トランプ氏は高市氏を「非常に尊敬される人物で、知恵と強さを兼ね備えている」と評した。
これに対し高市氏は、「日米同盟をより強固で繁栄したものにするため協力していきたい」と投稿し、米国との友好姿勢を示した。
彼女は、トランプ政権下で締結された投資協定を尊重する意向を示しており、日米関係の安定維持を目指す姿勢を明確にしている。
移民問題を重視する保守的な政策姿勢
高市氏は、外国人観光客や在留外国人が増加する中、移民をめぐる社会的緊張が高まるタイミングで、国家主導の移民管理司令部の設置を提案している。
自民党総裁選中には、「奈良公園で外国人観光客が神聖な鹿を蹴った」との未確認情報を引用して発言し、野党から「外国人排斥をあおるものだ」と批判された。
彼女は『朝日新聞』のインタビューで、「外国人への監視を強化するのは、治安や文化的価値への懸念に応えるためだ」と主張した。
「国民が本当に不安を感じているなら、その懸念を解決する道を見つける必要があります。これは排外主義でも差別でもありません」と述べている。
背景にある「右派ポピュリズム」の台頭
東海大学グローバル学部の小貫大輔教授は次のように分析する。
「外国人への恐怖の裏には、経済の弱体化、特に円安とインフレがあります。これは安倍晋三元首相の経済政策の帰結だと考えています。」
2013年に始まったアベノミクス(Abenomics)は、日本経済の停滞脱却を掲げたが、所得格差を是正するには至らなかった。
多くの日本人が過去30年間、実質的な収入増を感じられず、将来への不安が募っている。
その不安の矛先が外国人に向けられ、「日本人優先」という考えが受け入れられるようになったと教授は述べる。
「今や多くの政党が外国人の権利を制限する方向に動いており、こうした傾向が強まっています」と小貫氏は語った。
外国人居住者の増加
2025年6月に発表された出入国在留管理庁の統計によると、日本に滞在する外国人(短期・長期を含む)は前年より5%増加し、396万人に達した。
これは日本の総人口の3%超にあたる。
かつて3位だったブラジル人は現在、約21万1,000人で7番目の規模となっている。
最多は中国人(90万人)、次いでベトナム人(66万人)、韓国・朝鮮人(40.9万人)、フィリピン人(34.9万人)、ネパール人(27.3万人)、インドネシア人(23万人)と続く。
このように外国人が増える中でも、日常生活で差別を経験するという声が少なくない。
日本社会に残る偏見
ブラジル出身の**酒井さん(仮名)**は、日本に住んで9年になる自動化システムエンジニアだ。
日本語が堪能で、父親が日本人、勤め先も欧州系の大手企業であるにもかかわらず、「家を借りるのに5回も断られた」と話す。
「日本人がこの民族中心主義的な考えを変えない限り、国は前に進めないと思います」と語り、実名の公表は差別を恐れて控えている。
拡散するデマと外国人への敵意
観光客や移民が増えるにつれ、SNS上での誤情報も急増している。
「外国人は犯罪を多く犯している」「不当な特権を得ている」「税金を払っていない」といった根拠のない投稿が拡散し、反移民感情をあおっている。
「Japan First」──参政党の急伸
このような社会状況の中で、移民問題は超国家主義政党・参政党(Sanseito)の台頭にも直結している。
2025年7月、同党は「Japan First(日本第一)」というスローガンを掲げ、参議院選挙(125議席が改選)で14議席を獲得。
非改選1議席と合わせて計15議席の会派へと急拡大した。
このスローガンは、アメリカのトランプ大統領が掲げた「America First」に類似しており、参政党は若年層や保守層の不満票を取り込みながら、
明確に反移民的な言説を展開している。
ブラジル人団体「緊急声明」発表
この事態を受けて、在日ブラジル人移民運動(MBE)は、他の1,159団体と共同で「排外主義をあおる風潮に対する緊急声明」を発表した。
MBE共同創設者のミゲル・カミウテン氏は次のように語る。
「日本は1995年に『人種差別撤廃条約』に加盟しました。
しかし30年経った今でもヘイトスピーチや排外的運動が増えており、とくにSNS上では勢いを増しています。」
労働力不足と政策の矛盾
反移民的なレトリックとは対照的に、日本の労働市場は深刻な人手不足に直面している。
政府は今後5年間で82万人の外国人労働者の受け入れを目指しており、その主要な手段となるのが2019年に導入された特定技能ビザ制度である。
この制度を利用している外国人はすでに30万人超にのぼり、多くが東南アジア諸国の出身だ。
地方自治体と専門家の警鐘
外国人が多く住む自治体の知事や市長の中には、「移民政策を厳格化すれば、地域経済に打撃を与える」と警鐘を鳴らす者もいる。
しかしこうした声は、ナショナリズムに傾く世論の壁に阻まれている。
「市民政治塾やまなし」代表で政治学者の飛矢崎雅也氏はこう警告する。
「人口減少が続く中で、外国人を戦略的に受け入れ、共生を進めなければ、日本社会は維持できません。排外的な方向に進むのはきわめて危険です。」
教育現場にも影響
教育関係者の間でも、「Japan First」的なナショナリズムが子どもや若者の間に浸透することが懸念されている。
実際、外国籍の児童生徒へのいじめが報告されている。
在日外国人教育研究全国協議会の舟地敦氏はこう述べる。
「大人たちが『Japan First』のようなスローガンを当然視すれば、子どもたちもそれをまねてしまう。教育現場での監視と指導が重要です。」
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