「早ければ2013年度」とされる株式上場を前に、リクルートの既存株主(参考記事:リクルート株上場なら、いくらの含み益? 保有各社の皮算用)は、それぞれの反応を示している。株価が最高2万円台と推定される中では、はやる気持ちも致し方ない。

 上場前に、早くもリクルート株を放出したとみられるのは、東京電力だ。東電は2011年3月末で、発行済み株式数の4.9%、300万株を抱える大株主。東電がリクルート株を取得したのは01年だった。00年にリクルートがダイエーから自社株を買い戻した後、安定株主作りの一貫として、東電や旧日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)など主要3行に、自社株を譲渡した経緯がある。

 巨額の損害賠償を抱える東電は、目下、電気事業に関係ない資産の売却を進めているところ。リクルート株も売却した模様で、これはリクルート自身が自己株として買い戻したようだ。

 一方、07年から08年にかけて、互いに持ち合う形でリクルート株を購入したのが、在京の民放キー局や、電通など大手の広告代理店である(下表)。持ち株比率は5~1%で、購入価格は計算上1株9000円。リクルートの子会社などから譲り受けた形だ。テレビ局にとってもリクルートは大口の広告主ゆえ、取引先としての対策があったと思われ、いずれもいまだ保有しているようである。

■ベテラン社員なら、持ち株は億円単位に?

 だが何といっても浮き足立っているのは、筆頭株主の社員持ち株会だ(11年3月末で13.8%)。創業者・江副浩正氏の時代には、積極的に持ち株会を通じ自社株を持ってもらった。社員(グループ含む)は資産形成のために保有し、自宅購入などまとまったカネがいる際は、持ち株会に売却できる。退職時には持ち株会に株を返さねばならない。

 「配当も1株5円から出発し、少しずつ配当額を上げていった。内部留保が積み上がるにつれ、社内株価を、年率20%前後で上げていった」(『リクルートのDNA』〈角川書店、江副浩正著〉より)

 リクルートでは社内株価を算出している。決算ごとに見直し、社員には給与明細などで常時公開。現状では1株「1万数千円」台のようだ。持ち株会の事務局は総務部が担当する。

 「社歴20年・40代の社員なら、持ち株数からいって、上場で資産価値が数千万円、場合によっては億までいってもおかしくない」(リクルートOB)。6月25日夜、NHKで「リクルート、来年度中にも上場」のニュースが流れて以降、「上場前に自分の株をどうしたらいいか」、社員の間で話題が絶えなかったという。

■役員持ち株会は数十億円も

 また社員持ち株会とは別に、リクルートには役員持ち株会も存在する。こちらでは河野栄子元社長など古参の元役員らが保有しているもよう。1人当たりの資産も数十億円と、ベテラン社員と比べても、ケタが1つ違うと思われる。一説には今回の上場については、「古株の元役員からプレッシャーもあったのではないか」(別のOB)との声もある。ただ、いくら上場で含み益が膨らんでも、放出する株があまりに多ければ、換金するにはハードルが高そうだ。

 ちなみに所有者別状況で見ると、「個人その他」が持ち株比率37.4%を占めている(自社株含む)。仮に時価総額が1兆円になれば、個人その他だけで3700億円超の資産を持つ勘定である。

 今、リクルートに対しては、株式上場で“株長者”が多数生まれれば、「それまでハングリーだった社員のモチベーションが下がるのではないか」、といった懸念が消えない。反対に、高齢化する社員の平均年齢を一定以下に保つため、「会社が調達資金を原資に一気にリストラに乗り出すのでは」と、うがった指摘も聞こえてくる。いずれにせよ、リクルート上場を前に、社内外が大きく揺れ動いているのは間違いない。

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