「老化物質(AGEs)が虫歯の進行を抑制する」という記事について | 総合診療医:誰もがわかりやすく医療を理解する事ができるブログ

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次の記事が各新聞やネットで発信されています。
「老化物質(AGEs)が虫歯の進行を抑制する」
http://www.sankei.com/west/news/160815/wst1608150067-n1.html
  
次に内容を、全文ご紹介します。
  

  
~歯に蓄積した老化関連物質「AGEs」の働きで、年を取ると虫歯の進行が遅くなる~
  
上の新聞のように大阪大の三浦治郎助教(総合歯科学)らのチームが、研究結果を明らかにし、歯学専門誌電子版に8/15発表した。
虫歯への耐性を強めているとみられ、チームは「加齢と虫歯の関係性の解明や、AGEsを利用する治療法開発につながる可能性がある」としている。
  
チームによると、AGEsはタンパク質の糖化により作られる物質で、多くの種類がある。
(AGEsは)加齢に伴って体内に蓄積され、老化に関与するほか、糖尿病や腎不全などを悪化させる物質として研究が進んでいる。
  
チームは、歯の象牙質と呼ばれる部分で、AGEsが、虫歯になっている所に多く蓄積していることを、蛍光現象を利用した特殊な測定法で詳細に観察するのに成功した。
分析を進めると、AGEsが多い所は、虫歯の原因となる酸や酵素を加えても歯が溶けにくかった。
高齢者は、象牙質にAGEsが多く蓄積され、酸や酵素に対する耐性が強まるため、若年者よりも虫歯が進行しにくい傾向があるとみている。
  

  
上の文章をゆっくりと読んでみると、何だかおかしいと思いませんか?。
  
ピンク文字で示しましたが、前半の方では、「AGEsは老化・糖尿病・腎不全などを悪化させる物質」と「AGEs」を否定しています。
ところが後半では、「AGEsが多い所は、虫歯の原因となる酸や酵素を加えても歯が溶けにくかった」と「AGEs」を肯定しています。
  
つまり、正反対の結論を書いています。
  
「AGEs」に関しては私も詳しいつもりですが、「AGEs」の世界的第一人者である久留米大学山岸教授から、この件に関して説明がありました。
山岸教授の元には、AGEsに関する論文や記事が必ず入ってくるそうです。
結論として、後半部分の「肯定」は明らかに間違いです!!。
  

  
ここで「AGEs(終末糖化産物)」に関して説明します。
  
AGEs」はタンパク質と糖が加熱により結合して、これが長い年月をかけて増える結果、人間の体内にある約60兆個の細胞を老化させます。
  
これを「糖化」と言います。
すなわち「糖化=老化」と考えていただいて結構です。
  
細胞が老化させる「AGEs」は、様々な病気の原因となります。
(1) 動脈硬化の原因・・血液中や血管壁に蓄積する
(2) 癌の原因・・遺伝子レベルに蓄積する
(3) 骨粗鬆症の原因・・コラーゲン線維に蓄積する
(4) 白内障の原因・・眼球の水晶体を構成する「クリスタリン」に蓄積する
(5) シワ・しみの原因・・コラーゲン線維に蓄積する
(6) 認知症の原因・・脳内に蓄積する
  
そして、「AGEs」は歯周病の原因にもなります。
歯科領域の場合、むしろ歯周ポケットに「AGEs」は多く含まれています。
  
つまり今回メディアで取り上げられた記事は、明らかに間違っています。
  

  
もう少し、「AGEs」に関して説明します。
  
「AGEs」は次のような事が原因で増えます。
(1) 食品の高温加熱調理
(2) 砂糖・異性化糖などの過剰摂取による血糖値の急上昇
(3) 早食いや野菜の後回しによる血糖値の急上昇
(4) 運動不足、運動過剰
(5) 喫煙(AGEスティックと表現もできる)
(6) 睡眠不足
(7) 病気、ストレスの蓄積
(8) 紫外線の浴び過ぎ など
  
特に「(1)食事」では、焦げ目がついたもの程、「AGEs」含有量が増えてしまいます。
生ものがいいのですが、全てを生で食べるわけにはいかないので、出来るだけ焦げ付かない食事を心がけた方がいいのです。
  
加熱が必要な食品の場合は・・・
・AGEsが多い調理法:焼く、炒める、揚げる
・AGEsが少ない調理法:煮る、蒸す、茹でる
  
例えば、下の写真のように、ご飯とお肉とでは「AGEs含有量」すなわち「exAGE」が大幅に異なります。
私がブログで、度々バランスが良い食事を心がけるように書くのは、食事からの「AGEs」摂取をできるだけ抑えるためでもあります。
  

ex2

  
さて、ではなぜメディアでも取り上げられた間違った記事が発信されたのでしょうか?。
  
まず個人的に考えたのは、「AGEs」の中でも、もしかしたら「良いAGEs」があるのでは?と思いました。
しかし、山岸教授によると、「良いAGEs」など存在しないとの事です。
  
考えられるのが、最初に記事を作成した人自体が、「AGEs」というものを全く理解しないで書いたのでしょう。
あるいは大阪大の方で、よくわからないまま発表したのかもしれません(こちらの可能性は低いと思いますが)。
  
私は医師・歯科医師のみを集めた「AGEs」のセミナーに参加した事があります。
残念ながら、日本ではまだまだ「AGEs」に関して認識が薄いという印象がありました。
むしろ一部の一般人の方が詳しいと思います。
  

  
ここの枠は、「AGEs」に関心の高い方、特にM社会員の方に申し上げます。
  
今回の冒頭の記事のように「AGEs」がマスコミに取り上げられただけで、中身を全く理解もしないで、脊髄反射の如くシェアしていませんか?。
あるいは、●博士がFBに投稿しただけで、中身を理解もせずにシェアして自己満足していませんか?。
  
特に今回のシェア、「AGEs」に詳しくない一般人を迷わせています。
誰しも自分のビジネスにとって、都合が良い事を探すものです。これを否定するつもりはありません。
  
私の見立てでは、日本の医師・歯科医師よりM社会員の方が、AGEsに関して詳しいと思います。
まずは自分自身がきちんと記事の中身を理解して、これは一般人にも知ってほしいと思う記事のみをシェアするようにお願いします。
  

  
最後に、もう一度「AGEs」についてです。
世の中には、名前がついた様々な食事法なるものが出回っています。
  
それらの独自の食事法で、「AGEs」を考慮しているものは、果たしてあるのでしょうか?。
国際的に認められた論文はあるのでしょうか?。
  
私は「AGEs」をかなり重要視しています。
「AGEs」に関しては、医学専門サイト「PubMed」にたくさんの論文が発表されています。
しかも・・・
・「利益相反行為」がありません。
・「第三者機関の調査」もあります。

⇒論文を発表しているだけでも、とても重要な事ですし、この2つは論文の重みという上でも大切な事です。
  
自分がいいと思ったものを、科学的根拠もなく「全員従いなさい!」という内容で、無理矢理他人に勧める記事が多いようですが・・・。
多くの人々に勧めて納得させるには、理論だけではなく、世界的に認められた論文が必要です。
  
(画像はネットより引用)