前回,富士登山の思い出を書いていたら,その数年前に富士山の麓でパラグライダーに挑戦したことを思い出しました.友達10人ほどで,日帰りの小旅行として出かけました.
体験したのは,多くの人が想像するようなインストラクターとのタンデムフライトではありません.自分一人で空を飛ぶコースでした.
まずは約100mの山を登り,インストラクターから説明を受けます.山頂でパラグライダーを装着すると,インストラクターに補助されながら斜面を勢いよく駆け下ります.数歩走った瞬間,ふわりと身体が地面を離れ,風が翼を支え,そのまま空へ飛び立ちました.
近くにはインストラクターが別のパラグライダーで飛びながら,風向きを見て,その都度ライン(操縦用の紐)の操作を指示してくれました.私はその指示どおりにラインを引き,風を感じながらゆっくりと旋回し,空中散歩を楽しみました.

着地すると終わりではありません.ハーネスはザックと一体化していて,その中へキャノピー(翼)を畳んで詰め込みます.そして再び100mほどの山を一人で登り,もう一度飛び立つ.その繰り返しで複数回の体験をしました.
一度目に飛び立つときは怖かったのですが,二度目からは不思議と恐怖はなくなっていました.翼があることを身体が覚えたからです.
山を登るのは大変でしたが,その苦労があるからこそ,一歩踏み出して空へ飛び出す瞬間の爽快感は格別でした.自分の足で山を登り,自分の力で空へ飛び立つ.その達成感も,この体験の大きな魅力でした.
晴天の真っ青な空,眼下に広がる緑,頬をなでる風,そして雄大な富士山.空から眺める景色は,地上とはまったく違い,自然の大きさを全身で感じることができました.
飛行機やヘリコプターに乗って空を移動するのとは違い,パラグライダーは自分自身が風を受け,風に支えられながら飛んでいる感覚があります.エンジンの音もなく,耳に届くのは風が翼を通り抜ける音だけ.その音を聞きながら空を舞う時間は,まるで鳥になったような自由さがありました.
身体を包む浮遊感や,自分の操作でゆっくりと旋回する感覚.そのすべてが新鮮で,最高に楽しい体験でした.空を飛ぶ喜びとは,ただ高い場所へ行くことではなく,自然と一体になりながら身体全体で感じるものなのだと思いました.
飛行を終えた身体や髪は,砂まみれになっていました.何度も山を登り,風に乗って飛び立った証のような砂でした.帰り道には河口湖の温泉に立ち寄り,汗と砂をきれいに洗い流してから,東京へ戻りました.
人生には,自分の足で山を登り,自分の勇気で飛び立つからこそ見える景色があります.あの日,風に身を預け,富士山を眺めながら自由に空を舞った喜びと,頬をなでる風の感触は,今も私の心に鮮やかに残っています.
Copyright © 南久惠 HISAE MINAMI All Rights Reserved.
