「まあ、身構えることはないよ、ユーリ君。僕は君と、友達になりたいだけなんだ。今日のところは、ちょっとばかり挨拶にきたというわけだね」
そういわれても、どうみても得体の知れない相手に友達となれるとは思えない。パルシファルは頷く。
「こんな反逆の天使ルシフェルのような姿をした相手に友達になろうといわれても、確かに君も困るだろうね」
パルシファルは、そっとため息をつく。
「なんというか、この姿はかつてジョルジュ・エドワルドに凄くうけたから使ってるだけでね。では、こちらの姿ではどうだろう」
十二枚の輝く翼を広げた純白の天使の姿は、一瞬にして消滅する。そのかわりに、軍服姿のおとこが姿を現した。とても古めかしい、先史時代の軍服を身につけたその青年は、軍人らしい精悍さと詩人のもつ繊細さを同時に併せ持っているようだ。
「これがかつてひとであったころの姿だよ、ユーリ君。ひとであったころの名は、ハインリヒ・クライストという。見たとおり、第三帝国の軍人さ」
ユーリは、あまりのショックに目眩を感じた。パルシファルは、こともなげに笑ってみせる。
「できれば詳しい事情を説明したいところだが、またの機会にしよう。そろそろお暇する時間が、きたようだ」
パルシファルは、出現したときと同じように唐突に姿を消した。
それとほぼ時を同じくしてブリッジに、アラート音が鳴り響く。
いつものとおりクラシカルなレースに飾られたドレスに身を包んだ姿のウルズが、声をあげる。
「先行する探索ドローンが、クトゥグア・クラスを発見したよ。その数、六。距離、十三万五千」
ブリッジに緊張が、走った。
ユーリは、ダーナが隣から少し怪訝な目を向けているのを感じる。けれどあえて、気づかないふりをしておく。ダーナは、とりあえず目の前のことに集中することにしたようだ。
ワルターは、吠えるような声を出す。
「本艦は、これより暗黒種族艦隊との戦闘を開始する。総員、戦闘配備だ」
ダーナは、ターゲットスコープを開く。ユーリも、操舵レバーを握りしめる。そして、声をあげた。
「暗黒種族艦隊、クトゥグア・クラスに向けて進路をとります。進路、X3、Y4、最大戦速に加速。ヨーソロー」
ユーリの隣でダーナは、ワルターに向かって声をあげた。
「艦長、グングニルの発射にむけたシーケンスを発動させるよ」
ワルターは、頷く。
「グングニルの、発射準備を開始しろ。目標、クトゥグア・クラス」
ヴェルザンディが、声をあげた。
「対消滅リアクターエンジン出力上昇、百二十パーセントまで上昇」
ウルズが、それに被せるように声をあげる。
「クトゥグアに、エネルギー反応。五百三十秒後に、クトゥグア・クラスの射程に入るよ」
ダーナはウルズに頷きつつ、いつもの不適な笑みを浮かべ、銃把型コントローラを握る。
「グングニル、自動追尾プログラムエクスキュート開始」
ヴェルザンディが、ダーナに応える。
「自動追尾プログラムエクスキュート、エンジン出力百八十パーセントに上昇しました」
ユーリは、全天周スクリーンに不吉な姿を浮かべるクトゥグアをみる。テラの深海を遊弋する軟体生物にも似た流線型の怪物は、先端に突き出た三つの角に鬼火の光を宿していた。
それは凶運を告げる、妖星の輝きでもある。
ユーリは、ごくりと息をのむ。
対消滅リアクターエンジンの出力レベルが警告域に達したらしく、アラート音が鳴り響く。いつものように、ユーリのコンソールには燎原の焔がごとき赤い警告メッセージが並んでいった。
「ビーム砲十次元チェンバーへのエネルギー充填、限界値に達します」
ヴェルザンディの声にダーナは頷き、銃把型コントローラを操作してレティクルにクトゥグア・クラスをとらえる。
「グングニル、自動追尾プログラムエクスキュート完了」
ヴェルザンディの報告と同時に、ウルズが声をあげる。
「クトゥグアのエネルギー反応が、限界値を越える。砲撃、くるよ!」
一瞬、六体のクトゥグア・クラスが放った砲撃により、パルシファルの全天周スクリーンが真っ白になる。艦体が、波を受けたように少し揺らいだ。しかし、ユーリの目の前に表示されている艦のステータスに異常はないようだ。
「ダメージコントロールを」
ワルターは、怒声のような声で指示を出す。スクルドは、報告の声をあげた。
「うーん、なんともないねぇ。あいかわらず呆れるわ、この船のパワー」
おそらくテラの艦体を粉砕するような砲撃に全く無傷であるという事実に、ユーリ思わず目を丸くした。
ウルズが、声をあげる。
「あと三十秒で、クトゥグアをグングニルの射程にとらえられるよ」
「対消滅リアクターエンジン、出力二百パーセントに達します」
アラート音を貫くようにヴェルザンディが声をあげ、ダーナが頷く。
「全砲口の、シールド解除。総員、対衝撃防御」
その瞬間、ウルズが声をあげる。
「クトゥグア、何かを放出したよ。球体状に変化した、インスマウスと思われるわね」
ユーリは、シャボン玉げ吹き出すように球体がクトゥグアを覆っていくのをみる。
ワルターが、不機嫌な声で叫ぶ。
「かまわん、グングニルで撃ち抜け」