「帰ってきたよ!」
「…お勤め…ご苦労さまでした…」
ヤクザ映画でしか聞いたことのないセリフを…
僕が…口にする日が来るなんて…
まったく…想像したことは…なかったけれど…
いま…自然と…口からこぼれてしまった…
歌舞伎町の居酒屋で…アルバイトを始めて…半年…
気づけば…顔馴染みが増え…
町を歩くだけで…
「ひるまさん!」と声をかけられ…立ち話をすることも少なくない…
その…顔馴染みのひとたちが…逮捕された…と聞くことも…
珍しいことではなくなった…
売春防止法で…逮捕された女の子たちは…
10日間ほど留置され…だいたい不起訴になって…
娑婆に戻ってくる…
「…どうだった?留置所暮らしは?」
「ん〜ヒマでさぁ…三食きちんと出るから…太っちゃったヨ…」
「取り調べとか…キツイの?」
「全然キツくないヨ……でも…ワタシ…誰にも迷惑かけてないと思うんだけど…
どうしうて捕まるの?」
「…ん〜…日本国の…法律で決まっていることだから…かな…」
ありきたりなことしか…言えない…
「…それにしても…相手が未成年でなければ…買う側の男性は…まったくお咎めなし…
というのは…なんかおかしな法律だよね…」
「ホントだよ〜ズルいよ〜」
あまり懲りていない様子の…彼女は…
今日…出てきたばかりだというのに…
公園に立つために…店を出ていった…
この町に…少しづつ…根を下ろしてゆく僕を…見かねて…
「変なことに…巻き込まれないでよ〜」と…心配してくれるひともいる…
「…はい…僕は…飲むけど…打たないし…買わないから……大丈夫ですよ…」
なんて答えながら…少しビビっている…
この町の…日常を…知るたびに…
この町の…ひとたちを…知るたびに…
いままでの…僕の生き方が…
なんだか…
揺らぐのです…