「…なんだって?ピキピキ」

俺は怒りの仏に少しびびったが、話を続けようとした。

しかし、遮るようにそれまで黙っていた嫁が口を開いた。
「それ”…ゲホッゲホッ!」
嫁は久しぶりに言葉を発したせいか、声が上手く出ないようだった。それが今でも印象に残っている。

「…それって昨日私に言った、驚かせようとしたドッキリって話…?
また…そんな嘘…つくの…?」

「違うんだ…嫁。いや違くないごめん。それは実は嘘なんだ…。あの時はあわてて咄嗟に嘘をついちゃったんだ…。ごめん」

「また…嘘じゃん……ふぇ…うっ…う"う"う"う"ぅぅぅぅ……ばかぁぁぁっ!……」

嫁が泣いてしまった…。あんなつまらない言い訳使わなければ良かった…。畜生…。嘘カウント1増えた…。

「…怪しいと思ってた…通帳もぉ…うっ…グス…クレジットカードも…夜に帰ってこないのも…ふぅう"ぅ"ぅ"ぅ"ぅぅうぅ…」

御母さんの俺を見る目が、生ごみよりさらに汚いう●こを見る目にレベルアップした!

やっぱり怪しまれてたのか…。だけど全ては誤解なんだ。これからその誤解が一つずつ解けていくはずなんだ!


俺 の カ ミ ン グ ア ウ ト が つ い に 始 ま る …


「嫁…俺は…世間で言われている  ア ニ メ オ タ ク な ん だ 。  」


ついに言った…。後悔はしてない。
少し清清しさを感じるまでだった。罪を白状したような気分…。清涼な風が俺の心を吹き抜ける…。
俺の脳内の鼻琳が存在を否定され、ダメージを受け叫んでいる気がした。

部屋がシーンと静まり返る。しかし、場違いの発言がこれほどまでに時を止めるとは…。
嫁は何を言っているのかよく分からないという顔をしていた。もちろん目は真っ赤。

「御父さん…。この鼻琳というメールの女性は、僕の好きなアニメに出てくるキャラクターなんです」

御父さんも訳が分からないというしかめっ面をしている。
しかし俺はさらに畳みかける!攻撃…いや口撃を止めない!

「 つ ま り ! 
俺は自分の持っているフリーのメールアドレスを、自分の携帯に 鼻琳 と登録して、
そして自分の携帯に鼻琳からとしてのメールを受け取っていたわけですよっ!!(ドヤ顔っ)」

俺は何故か自信満々に言い放った。
どうだ!?どうにでもなれ!これで分かっただろう?事件の内容、そして俺の気持ち悪さが つД`)・゚・。・゚゚・*:.。


俺は御父さんを見た。
御父さんはちょっとキョドった様子でこう言った…。

「 つ ま り … ど う い う 事 な ん だ ? 」

御父さんは理解していなかった。つーかナルトかよチクショー・゚・(つД`)・゚・
そして、御母さんの俺を見る目が、う●こを見る目から可哀想な子を見る目に変わった!
やめて御母さん!それが一番傷つくの!


…確かにちょっと上記の説明じゃ分かりにくかった。俺も正直ちょっと分かりづらいなと言ってて思ってた。

俺は赤面しながら、フリーのメールアドレス、自分の携帯への登録…。今回のメール偽装事件の内容を細かく三人に説明した。
正直死にたかった。御父さんに「あーそういうことね」と頷かれる度になんか死にたかった。


「…それで鼻琳からメールが来ているように自分を思い込ませて楽しんでいたんです…」

事件解決…。全てを説明し終わった瞬間、俺の脳内鼻琳は断末魔の声をあげて消滅した。シュワ~。
勝った。俺は鼻琳に勝った。もう惑わされない…。そうだこれからは心を入れ替えて…一日三膳恋陽陽…

「夫君」

「ひゃい。御父さん」

完全に油断していた。何か御父さんと嫁が話しをしていた。
そしてこっちを向いた。

「夫君が好きな…そのアニメ…。
な ん て 名 前 だ い ? 」

えっ…名前?俺は予想外の質問に焦った。

「名前ですか!? は な り ん ですけど…(連呼させるなwww恥ずかしいwww)」


「えーっと…違う違う。 題 名 だ 。 」


えええええええええ題名言うのぉぉおおお?どんな羞恥プレイですか!?
知ってどうするの!?えええええまじで言うのねぇまじで?

俺は平静を装ったが、明らかに動揺していたと思う。


そんな俺の様子を見た嫁が
「やっぱり嘘じゃん…夫がオタクなわけないよ…。今まで一緒に居た私が言うんだもん…。
どうせ鼻琳と…昨日の夜に電話で打ち合わせでもしたんでしょ…?こうやって言えば大丈夫だとか…」
と憎らしげに言った。

嘘じゃねーよチキショー!!脳内鼻琳が高笑いし息を吹き返すのを感じた…。
ハナリン
完璧な嘘はリアルを侵食する… そんな映画のキャッチフレーズが頭に浮かんだ。

悔しかった…。俺の脳内の鼻琳を殺すだけじゃもう鼻琳の存在は消えない。
こいつら三人に住む鼻琳全員を消さないと、完全には消滅しないのだ。
なんなんだ!?鼻琳…。最初はただの空想の人物だったのに、今では俺以外の三人にまで存在を認められる人物にまでなった…
怖い。鼻琳超怖い。俺は鼻琳に初めて恐怖を感じた。


「私もね。信じられないんだ。キミがそういう趣味をもっているとは…。
いや、その趣味を悪いというわけではないが…」

糞。負けるか。
題名を言えばいいんだろ…。恥ずかしいけど、嫁の受けた苦しみに比べたら!!!

「恋姫†無双…です///」

「…来い?ひめむ僧?」

「こ・い・ひ・め! む・そ・う!」

なんだ?…御父さん俺をからかってるのか?くそう恥ずかしいぜ。初めて嫁にチンぐり返しされた時より恥ずかしい///
しかしこれで、もう…。

すると御父さんが立ち上がり、隣の部屋に行ったかと思ったらすぐに戻ってきた。


ノートパソコンを持って。


御父さんはさっき居た同じ場所に座り、慣れた感じでノートパソコンを広げた。
パソコンの起動音が鳴る。

そして何か打っている。これは…まさか…

…検索?

やめてくださいね。
御父さんやめてください。

俺は神に祈った。無線LANが切れますように。契約プロバイダが爆発しますように。
しかし神などいない。この世に居るのは悪魔のみ。その名は鼻琳。


御父さんは、うん…うん…となにか呟きながらマウスを操作していた。
嫁と御母さんもパソコンを覗き込んでいた。
俺だけディスプレイが見えない…。みんな何を見てるの?何をしてるの?
バクバクの心臓が痛い…。

そして沈黙を打ち消したのは、パソコンからスピーカーから流れる大好きなあの曲だった…

『誰かにささぐ~命~なら~♪自分の境界を越えて~♪
今ならば~ここでなら~♪強さに変わりぃ明日へ続ーくよー♪』

おいいいいいいいい!!!!OP鑑賞かよぉおおおおお!!!!


「えっちょっ…ちょっ…見るんですか!?今!?」
俺はあわてて立ちあがってディスプレイを上から覗き込んだ…。youtubeだ。

「ああ。夫君がそれ程まで好きな作品なんだろう?」

「ええ?…ああ、はい…そうです…けど、その」

「ならいいじゃないか。私達も見てみたいよ。なぁ」

御父さんは何か勘違いしている。ドラえもんやしんちゃんとは違うんだぞ!
エロゲ原作のアニメなんだ!Hなシーンもあるんだぞ!


俺はソファに座って縮こまった…。嫌な予感がする。これはマズイ…。
子供の頃、悪さをした時にその悪事が親にバレているのか、バレていないのかどっちか分かりかねる時のあのモヤモヤした感情。


『忘れたい景色があり~♪
忘れたい記憶もあるぅ~♪』


おいいいいシンクロしてるよ。今の俺の気持ちと歌詞シンクロしてるよ。
flower of braveryはもうノリノリでは歌えない…


くそ。三人がディスプレイをじっーっと見ている。
表情から感情が読めない…呆れているのか、怒っているのか…それとも案外この曲良いかも!
とか思っているのかもしれない。
むかつくのがたまに御母さんが俺の方をチラッ…チラッ…と見てくることだ…。


『真実だけを~追い求め~♪』

よしサビに入った。俺は安堵した。もう曲は終わりに近づいている。
この俺だけディスプレイが見えないこの状態はもう終わりにしたい。心臓にわるい。

『明日へ続~くよ~♪』

よし…サビ終わり…終わった…




『傷を負った夢の為~♪』
まさかのフルかよおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!
ニコニコ動画じゃねえええんだからよおおおお!!!!


もう俺の精神はボロボロだった。
多分、曲の一番はOPのムービーが流れていた。覗いた時に動いてたから。
だが二番は分からない。
その動画の作者のお好みで作られてるからだ。
いやらしいエロゲ原作のアニメだってばれちゃうかも…はわわ…

しかしその心配は杞憂に終わった。二番のBメロで御父さんは曲を止めたからだ。

終わり?終わったの?
俺は地獄が終わった…と安堵した。

しかし次の瞬間、御父さんから出てきた言葉は信じられないものだった。


「鼻琳とはどのキャラクターだい?」

まさかの興味津々ルートぉおおお!?
俺は御父さんが分からなくなってきた。
この人は仏の仮面を被った悪魔なのかもしれない…。
さっきから俺に対して何かを仕掛けてきている。

「あ…あの…金髪の…ツインテールで…くるくる巻いてる…」

「ちょっと分からないからやってくれない?」

パソコンをズイ!とこちらに向けてきた。
畜生。この時はなんで御父さんが、恋姫のOPを探し当てたのか疑問だったが、
youtubeの検索欄はひらがなでこいひめって打っても、ポップアップで
恋姫 op とか色々出るじゃねぇか…


俺は こいひめ と打って適当にポップアップから 恋姫 3 というのを選んだ。
もうしょうがない。鼻琳を見たいと言ってるのだからここまで来たら見せるしかない…
カミングアウトしてしまったのだから、もう堂々とするしかない。


検索結果の中で一番上にサムネイルが華琳様が映っている動画がある。

それをクリックして俺も横から見えるようにテーブルの隅に置いた。
三人が何を見ているのか分からなくて不安になるより、
一緒に見たほうが何倍もいい…。

その時はそう思ったんだ…


再生が始まる。もう嫁や御母さんそして御父さんの顔なんて見ていられない。
普通に華琳がでてきて、すぐにストップして、この子ですよ!で終わりだ。
三人が集中してディスプレイを見る。
よし!スタートだ!


『お帰りなさいませ♪ご主人様~♪』



おいいいいいい!!!!!!ふざけんなああああああ!!!!!
気まずいってレベルじゃねーぞ!!
普段こんなアニメじゃねーじゃん!!!
なんでこの動画選んじまったんだあああ!!!!


俺は耳まで赤面した。恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
全身が痒くなるほど恥ずかしい思いをしたのは初めてでした。

少し面白かったのは御父さんも顔を真っ赤にしていた事wwwざまぁwww

ちなみに嫁と御母さんの顔は怖くてみれませんでした。無理です。


俺は顔の赤みが取れるのを待たず、タスクバーを横に動かして華琳こと鼻りんを見つける。

「この子ですよ」
俺は画面を指差した。

「ふむ。この子が夫君が夢中になった鼻琳か……」

画面には華琳と愛紗というヒロインがピリピリムードを出して話し合っている。

そうだよ。こういうシリアスな展開もある良いアニメなんだよ。
動画の最初こそアレだったが、これを選んでまだ良かったのかもしれないと思った。

そしてこの後の華琳と愛紗の絡みのシーンももちろん知っている。
その前に画面を消してしまえばいいだけだ。

「そうか…ありがとう。これはもう消そう…」


御父さんはパソコンを自分に引き寄せた。

良かった。余計な心配だったなw
俺はもうアニメ鑑賞会は終わったんだと思い、心の中で喜んだ。

「むっ…」

しかし、何かに御父さんは気づいたようだ。

「どうしました?もう終わりに…」
俺はもう早くパソコンを閉じて貰いたかった。
それこそ恋姫の画像検索なんてされたらもっとやばかったのかもしれない…。


「この右の……
恋姫†無双 問題のシーン とは… 」


身体に電撃が走った!やばいぃい!これはS級のヤツだ!
これを見られたらいい訳できない!(なんの?)こんな見られたら一発で変態の烙印を押されてしまう。
なにしろ俺の精神が持たない!!

俺は挙動不審になりながらも

「これは…その全然関係ないヤツで…見ないほうがいいですよ。全然違うヤツですし」

御父さんはすでにマウスを動かしてクリックしていた…


動画の再生が始まり、全員硬直する。

「夫君は…こういうアニメが…好きなのか?」
もう駄目だ…腋舐めとる…

『…ンッ…アッ…ハァハァ……アンッ…そう…イイわぁ……』

「違うんです…うっ…恋姫はこんなアニメじゃ…冒険活劇…ウッ…」
俺はもう弁解すらできなかった。
三人に顔を見せられず、背中を向けた。

『…アハ…ン…そうよう…また…上手くッ…アンッ』

完全に三人に変態の烙印を押されたと思った。
なんだよ地雷ばっかじゃねーか恋姫!
カミングアウトなんかしなきゃよかったんだ!そしたらこんな辱めを受ける必要なんて…
もっと他に良い言い訳を頑張って思いつけばよかったんだ!
そうだよ!友達に鼻琳を名乗って貰ってたとか!クソぉ…


しかし、喘ぎ声のする動画に変化が起こる。

春蘭『華琳様っ!』

この声に御父さんは反応を示した。

「かりん様?」

華琳『…けいふぁ……続けて…』

桂花『ンッ…チュパッ…チュパッ…』


「夫君…この金髪の子は はなりん じゃなかったのかね?」


ああーーーッ!!!糞オオオオォ!最初に訂正すれば良かったぁぁああ!!!
鼻琳めぇえええ!陰謀かあぁぁぁ!?ややこしいぃぃぃぃいいいい!!!!!

俺は初めてリアルで漫画の主人公の様に頭を両手で掻き毟りたくなった。
ここにきて鼻琳の智謀策略…重ねた嘘が剥がされる!


「あ…はひ…間違えました…この子は…鼻琳じゃなくて…華琳ですよね…ハハ…」

ガタンッッ!!!

「キミはっ!!それ程大好きなアニメのキャラクターの名前を間違えたりするのかねっ!!」

御父さんが始めて声を荒げた!!
違う!!俺じゃない!!貴方の娘が最初に間違ったんだぁぁぁ!!
俺は「はわわ…はわわ…」と朱里(恋姫のキャラクター)のように慌てるしかなかった…

普段温厚な御父さんが怒ったのが珍しいのか、嫁と御母さんは目を丸くしていた。
部屋がシーンとなる…

『ドクン…ドクン…』

恋姫の動画では華琳と愛紗での、二回戦が始まっていた…
作者ぁぁぁぁ!!繋げんなァァァ!!!
アニメでの心臓のドキドキ音はまたしても俺とシンクロしていた。

沈黙の続く部屋の中、
俺は御父さんのほうを気にすればいいのか、天幕から影越しに現れた覇王を気にすればいいのか…
意識を保っているのにギリギリの状態だ。
一方脳内鼻琳はB'sのギリギリチョップを熱唱している…

「はぁぁぁ………夫君」

「はひ……なんでしょう…」
ついに最後通告が言い渡されるのだろうか……離婚…?
嫌だ嫌だ嫁が好きなんだ好きなんだ…

「私はね…ここまでの夫君の反応をみて、まだ納得がいかないんだよ…」

「な…なにがですか…?」

なんだここまでの反応って…やはり俺は試されてたのか?
あああ最初に鼻琳の名前を訂正しておけば…だけどこんな事になるなんて…
動画では覇王が愛紗に襲い掛かってた。

華琳『しっとりツヤツヤne』

「oh…それと…この華琳…って子はさっきから女の子ばかりを標的にしているが…」

そうですよね…オタクじゃなければ疑問をもちますよね…
俺はちょっとレズっ気のある子なんですよははっ、なんて言えずただ立ちすくむだけだった。


「私はね…
夫君が極度のアニメ好きで、携帯でメールごっこをしていて、誤解が重なってしまったというより、
鼻琳という女性と浮気をしていた、の方が信憑性があって信じられるんだよ…」

「そ…そんな…どうして…どうして…」
御父さん…鼻琳に負けないでください……そいつは幻想なんです…信じちゃ駄目です…
俺にはなんでここまでさらけ出して辱めを受けたのに、御父さんが鼻琳の肩を持つのか分からなかった。
俺の目には鼻琳が御父さんの肩に馴れ馴れしく寄り添っているのが見える…
くそおおお!!脳内に引っ込んでろやぁぁ!!現実に干渉すんなぁぁぁ!!


「いい加減に…」

御父さんが俯いてプルプルしている…
やばいなんかやばい…。嫁もそれを気にしたのか、お父さん?と心配している。

遂に御父さんが激怒した。


「 嘘 を 吐 き つ づ け る の は や め な さ い !!」


ひいいいいいい!!切れた!!
その次に叫ばれた御父さんの言葉は信じられないものだった。


「 鼻 さ ん を …………こ こ に 連 れ て 来 い !!!!!」


鼻さん!!

駄目だ!もう敬称がついとる!
御父さんの脳内では鼻琳はどういう姿をしているのだろうか?鼻・琳さん?
嫁から外国人だというのを聞いているのだろうか?
中国人だと思っているのか?ある意味それで正解だが…

脳内の鼻さんはもう大喜びだ。紙吹雪を高らかに散らせ、昇格と書かれた紙を掲げている…


動画では華琳達が隠者に襲われていた…
御父さん!冒険活劇ですよ!これが見せたかったやつですよ!
と思ったがすぐ動画は終わった……神編集か…これが…


もう駄目だ…
いくら俺が何を言っても三人には嘘にしか聞こえないんだ。
嘘が完璧すぎたんだ…狼少年…まさに今の俺だ…

もう俺は鼻さんの存在を認めて、金輪際浮気はしないから許してくださいと
土下座してしまおうか、と思った。
号泣して哀れに謝って許しを乞いたかった。
そうすればこんなアニメ知らないという事になり、変態アニメ大好き男の称号を剥奪できる…
また重ねて嘘をついてしまう事になるが、もうこれ以上叱責され追い詰められるのは辛すぎる!


逃げたい。逃げよう。もう…降参だ。鼻琳…キミの存在を…認めるよ…俺の浮気相手…鼻・琳…


俺は土下座スタイルに入ろうと俯いていた顔を上げた…。
すると、手で口を押さえ涙を流している嫁と目が合った。

ひさしぶりに…嫁が俺を見つめていてくれた。

嫁…可愛いな。なんでこんな可愛い子を俺は泣かしてるんだろう…
この後、俺が鼻琳の存在を認め、土下座したら嫁はもっと泣くんだろうな…

なんでこうなったんだろう…最初はオタク趣味を隠していただけだったのに…
あ、そうだ。鼻琳の策略にかかりメールとか始めちゃったんだ…
そこから沢山の嘘を嫁に重ねた結果がこれだ…はは。

嫁と見つめ合い続ける…。
きっと…嫁はまだ…俺を信じ続けてくれている。
厳しいこと言い続けたが、心のどこかでは浮気を否定し続ける俺を信じているハズだ!


何故なら…何故なら…

俺らは夫婦だからだ

長年よりそった御父さん御母さんのような熟年夫婦ではない。
しかし、俺らだって将来を約束し身も心も相手に捧げると誓い、今まで絆を固めてきた!!

そうだ…そうだよ。俺はまた逃げようとしていた。駄目なヤツだ。
自分の弱さ…つまり鼻琳に逃げようとし嘘を重ねる…。もうそんな愚行はこりごりだ。

嫁はきっと、鼻琳に負けないで!そんなヤツに負けちゃ駄目!と言っているのだろう…

分かったよ嫁。うん。ごめんな。ああ、俺はつくづく馬鹿なやつだ。
もう泣かせない!


俺は目が覚めた。


鼻琳を倒すにはもう自分の保身を考えていては倒せない。
自らの身の消滅と引き換えにする勇気があって始めて鼻琳という怪物は倒せるのだ。
しかし…
この方法を取った場合、俺は今回の恋姫鑑賞会より遥か上の辱めを受けるであろう…


行こう。やろう。そしてこれが全て終わった時、俺達四人は本当の意味の家族になれるだろう。


そう思った。


御父さんの叫びから何分時が経っただろうか…ずいぶん長い間沈黙していたような気がする。
俺は最期の方法に出る前に確認しておきたい事があった。


「御父さん!」

「……なんだね」

御父さんも疲れたのだろう。目頭を指で押さえている。

「嫁と…二人っきりにさせてくれませんか?少しでいいんです!お願いします!」

「……」

俺の頼みに御父さんは考え込んだ。

「……嫁子…」
御父さんは嫁の方に身体を向けた。

「嫁は俺の嫁です!お願いします…」


嫁は頷いた…


よし。これで嫁と話ができる!

「じゃあ私達は…隣の部屋に居るから…話が終わったら呼んでくれ…」

御父さんは立ち上がり俺の横の通り過ぎ、部屋から出て行った。
御母さんも渋々といった感じで、部屋から出て行ったが、
俺の目すら見てくれなくなっていた…

「嫁…」
俺は急いで立ち上がって嫁の横に移動した。

「……なによ…」
嫁は俺と目をあわせようとしない。
そうだよ。いっつも喧嘩した時はこうだったよな。
たまらなく抱きしめたい衝動に駆られた。

「抱きしめてもいい?」
俺は聞いてしまっていた。

「…駄目」

ま、そうだよね。前日浮気した事に嫁の中ではなってるもんな。
ただ、いつも喧嘩した後はこの言葉の後に、「……うん」と可愛らしく嫁が言っていつも終わりになっていた。
それを思ったのか嫁もちょっと涙目になっていた。


俺は嫁に聞きたい事、確認したい事があった。
それを知りたいがために二人っきりになったのだ。

俺は言った。

「もし、俺が本当にオタクで、実家の部屋がアニメグッズだらけのキモオタ野郎でも、
嫁は俺のことを嫌いにならない…?」

嫁はすぐに答えた。

「私は貴方の優しさに惹かれて好きになったのよ?そんな事で……嫌いになるわけ…ない!」

俺はその言葉を聞いて涙が出そうになった。

「もしそれが本当なら…なんで言ってくれなかったのか、私は怒る…と思う」

嫁は強い眼差しで言い切った。


俺はオタ趣味を隠していた事を後悔した。
そうだよな。俺も例え嫁にスカトロとかそういう趣味があっても嫌いにならないもん。
むしろそういう趣味を打ち明けてくれた嫁を愛おしく思うだろう。
好きになった理由は別。本当にその通りだな、と思った。

「嫁…ありがとう…」

俺は嫁を抱きしめた…
嫁は抵抗しなかった…

肩細いなこいつ…ちゃんと昨日の夜から御飯食べたのか?
だからこんなにちびなんだぞ…

俺は抱きしめながら泣いた。
俺の涙につられて嫁も泣き出した。

ごめんな…嫁。全部俺が悪かったんだ。自分の嫁を信じ切れなかった自分が。
なんで俺は信じられなかったんだ…
仲間を信じて相談することが大事って俺はひぐらしから何を学んだんだ…


俺は決意した。

最後の手段を遂行することに…。自決覚悟の…特攻。

その決意に脳内鼻琳は怯えた。
(いいのか夫!そんな事したらお前もやばいぞ!やめろ!やめるんだ!)
いいんだ。お前という爆弾を抱えて共に身を沈めてやる!!
あれ…アトムも確かこんな感じだったな…確か太陽に突っ込もうとして宇宙人に拾われて
過去に戻って新品のアトムを直して…えーっと。。
俺はそんな関係ない事もぼんやり思った。

「…よし」

俺はスッと嫁から離れた。

「嫁…。俺はこれから身の潔白を証明する。
だけど、その証明を見たらびっくりすると思う」

「………」

「俺は嫁を信じる。図々しいと思うが…その…だから…嫁もその俺を受け入れて欲しい…」

「……意味が…分からないよ…」

嫁は不思議な顔をしている。
そうだよな。最後の手段の説明してないもんな。


「御父さんと…御母さん……呼んでくるよ…」

俺は立ち上がり二人を呼びに行こうと部屋を出ようとした。
その時、

「夫ぉ…」

嫁が呼び止めた。俺は振り返る。

「信じて…いいの…?」

「ああ。最初から浮気なんてしてないって言ってるだろ」

その言葉に嫁は久しぶりに…本当に久しぶりに少しだが笑顔を見せた。

俺は決意を新たに二人を呼びに行った…。


「御父さん、御母さんありがとうござました」
俺はまず二人に席を外してくれたお礼を言った。
隣の部屋で二人は何を話していたのだろう…。凄い気になるがあえて考えないでおく。

「俺は嫁を愛しています」

御母さんが、どの口が…と言いたそうに顔を歪めた。

「浮気するなんてありえません。だからその証明をするために…


俺の…… 実 家 の 部 屋 に き て く だ さ い !!」


苦渋の決断だった。
脳内鼻琳が会心の一撃をくらい暴れ苦しんでいる。


「俺の実家にくれば全ての潔白を証明できます。
実家の俺の部屋は…その…ゴニョゴニョだから…
それと、母にも度々俺が実家に帰っている事を証明してもらましょう」


そうだ。この際おかんにも協力して貰おう。
俺が嫁に今夜は帰れないメールを送った日付と、俺が実家に帰った日を照合すれば明らかじゃないか!

「ふむ…そうだな。夫君のお母さんに聞けば…確かに」

「ですよね!ではまた明日にでも…」

「今日だ。これから伺おう」

えええええええ!!!これからぁあああ!?
ちょっ…せめて華琳様の抱き枕…とかベッドシーツとか剥がさせてぇええええ!!!


「 ア タ シ も 行 く わ よ 」


御母さんが喋ったぁあああ!!!お前もくんのかよおおおお!!
てか第一声それえええええええ!?


かくして…俺達四人はこれから、俺の実家に向かう事になった…
(まさか……これも鼻琳の策略じゃないよな…ゴクリ…)


俺は…またしても空前絶後の辱めを受けることに…なる……