WOWOW鑑賞

名もなき運転手が世界を動かす
タクシー運転手 約束は海を越えて

ソウルの個人タクシー運転手のマンソフ(ソン・ガンホ)は妻に先立たれ、11歳の娘と二人暮らし。生活は苦しく新しい靴を買ってあげるお金もない。ある日、幸運にも高額の長距離客を見つけるが、指定された行先は学生デモが報道されている光州。客は封鎖された光州の街を取材しようと訪韓したドイツ人記者ピーター(トーマス・クレッチマン)だった。二人が目にしたのは警察や軍が市民に銃を向ける、報道とは真逆の風景だった。


1980年5月、全斗煥のクーデターに対し20万の学生・市民が蜂起した光州事件。街が封鎖されて真相が伝えられない中、街に潜入し独裁者の蛮行をカメラに収めた記者ユルゲン・ヒンツペーターと彼をサポートした韓国のタクシー運転手キム・サボク。

この二人の実話をモデルにした本作を初見。当時中学生の僕がすぐ近くで起きていた国際的な事件を何も知らなかったことはお恥ずかしい限り。事件後、名乗り出ることのなかった運転手の部分はもちろん創作だが、それも込みで本作は名作。


韓国映画の上出来なパターン。重い話にも場違いなほどの「笑い」を投入。序盤に多用するのでストーリーに自然に馴染む。なので、終盤に温存した重量級なテーマがより響く。実話ベースだけにリアル。「国際市場で逢いましょう」的近代韓国歴史劇。

暮らしていくのに精一杯の主人公は政治になど無関心。デモが増えただけで生活には支障がないソウルから命の危険さえ感じる光州へ。そこで暮らす人々の温かさにも触れ徐々に変わっていく。どうすればいい、と車内で自問する名シーンに鳥肌。


ソン・ガンホがその実力を遺憾無く発揮。イラつくほど無遠慮でだらしないオッサンが名もなきヒーローに変貌する様は圧巻。事実とは違うラスト、ソウルを再訪したピーターにそれでも会おうとしない侠気はカッコよくさえあり、ガンホだからこそ。

戦場のピアニスト」のクレッチマンはドイツ人脇役と言えば登場する。本作はがっつりセンター。ホントはもう少しイケメンなリュ・ジュンヨルの素朴さがとても良い。進むにつれてカッコよくなるユ・ヘジンは本作のキモになる役ではないかと。


平和に見える世界のすぐ側で繰り広げられる地獄絵図。封印された真実。これって戦中日本の「大本営発表」みたいなもの。都合の悪いことを捻じ曲げる「権力」は鴉だって白くする。正しいわけがない。

グータラな運転手と名もなきヒーロー。平和なソウルと緊張の光州。相対する両者が違和感なく同居。重いテーマの作品は得てして再見はしんどい。なのにガンホによって、また観たくなる名作になった。


監督:チャン・フン/脚本:オム・ユナ
出演:ソン・ガンホ/トーマス・クレッチマン/ユ・ヘジン/リュ・ジュンヨル/パク・ヒョックォン/ダニエル・ジョーイ・オルブライト


hiroでした。


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グエムル ガンホ×ジュノ!


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