読書日記「向田邦子の恋文」

 

 

1983年、航空機墜落事故で51歳の人生を閉じた作家の恋文から向田邦子の家族像、実像にせまる秀作。

 

向田家の長女として家族を守りながらも、妻子ある13歳も年上のカメラマンN氏との恋に落ちた邦子。同時に厳格で苦労人である邦子の父は家の外に女をつくり家族は崩壊寸前の状態。母を、弟妹を思いながらも自分も人を傷つけて生きている葛藤。

 

N氏はその後脳卒中を患い、足が不自由になり仕事もままならない状態に陥る。邦子はそんなN氏の家に三日を空けずに通い続けた。当時邦子は31歳。

 

そんな邦子の献身的な愛も、N氏にとってあまりあるものであったのだろう。1964年2月N氏はみずからの命を絶ってしまう。

 

ありし日にN氏が邦子を撮ったポートレートは、愛する人にだけ見せる美しさと強さが感じられる。本書に掲載された真っ直ぐな瞳のポートレートを見るだけでも当時の向田邦子を思い忍ぶことができる。

 

航空機事故で失われた命は、ありし日の昭和の日本でもあったのかもしれない。