娘夫婦が9月に北海道に行って、しあわせのパンの撮影場所にも行くと言うので、本棚にあった文庫を再度読み返してみた。
この文庫本は僕が札幌単身赴任時代に札幌駅前の紀伊國屋で買ったものだ。北海道が舞台になっているので、札幌駅前の紀伊國屋さんで目立つ場所にて山積みしていたのを、手に取ったのだった。2011年12月のこと。もう10年経つんだ。単身赴任が終わり家に持って来たその文庫本を娘が読んだんだろう。
恋人との沖縄旅行をキャンセルされ、北海道に来た香織が本当の自分を取り戻す第一話、「さよならクグロフ」
家を出て行った母を慕いながらも、残された父とこれから二人で生きていこうと決意する小学生未来の葛藤を綴る第二話「ふたりぼっちのポタージュ」
金婚式を迎える末期癌の妻と死んでしまおうと思い旅に出た夫が、妻の生きる力を発見する「壊れた番台とカンパニオ」
洞爺湖町月浦のカフェマーニを訪れる人をめぐる三つのエピソードが悲しくも静かに綴られている。その底辺を流れるコンセプト。それは人は一人では生きていけないということ。生きているだけで意味がある。誰かが生きて、知らずに誰かの心を明るく照らしている。
コロナ禍で、娘夫婦の北海道旅行は取りやめとしたようだが、いつの日か僕も妻とカフェマーニに行ってみたくなってしまう、そんな温もりを感じる文庫本だった。
