75歳になる桃子さんは、十数年前に最愛の夫を亡くした。東京オリンピックの 好景気に湧く年に、故郷の山形から逃げるように東京に出てきた後、住み込みの大衆割烹店で無我夢中で働いた。そんな時、昼食時に同郷の方言を大声で話す周造に出会い結婚する。幸せな結婚生活30数年間を通して周造を愛し続け、夫の為に尽くして生きてきた桃子さん。
最愛の夫が亡くなってからの孤独な暮らしの中で、桃子さんは夫と暮らした夢のような日々を想い、夫について、子供たちについて、生きていることについて、そしてこれから死んでいくことについて思いを巡らしてゆく。それは孤独な桃子さんの心の中のつぶやきとして語られていくのだが、あまりにも悲しくも切なく私たちの共感を呼び起こす。人間の実存に関する難問に東北弁でつぶやく桃子さんが、そっとその意味を教えてくれる。
私は先日、映画を先に妻と観賞したが、当然ながら小説の方が作者の意図するテーマが明確であり楽しめる。もちろん映画も限りなく原作を忠実に描き切っている。
