1968(下巻) | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ
2010-06-18 11:08:45

1968(下巻)

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1968〈下〉叛乱の終焉とその遺産/小熊 英二

 『1968』下巻。坂本龍一の都市伝説とか笑いました。まあ、おもしろかったんですけど、著者ご本人はインタビューなどを読むと「基本的に戦略的なものの書き方しかしません」とか「68年の運動の挑戦と敗北から学び、建設的に生かせ」ということで言っていらっしゃるようなので、そういう意図にそっての感想です。ちなみに私は基本的に「戦略的」だとか「あえて」とか言ってる人はあんまり信用しておりません。ほんとに戦略的な人や組織などは、そないなこと言いませんから。

 書評やレビューも読んでみましたけど、「結局、自分探しでしたね!」「祭りでしたね」とか、そうだったんだろうと思うし、そういう本なんですけど、そこを理解したとしてもそれ建設的に生かせるんだろうか。若いってことは、それだけで痛いし熱いし、その数が多いんで、そういう痛い人間も目立つだろうしね、そこはしょうがないんじゃないかとも思いますけどね。ユースバルジ。ベ平連には前と同じく好意的だし、別に小田さんは、まともなほうだと思いますけど、しかし本の目的からすると、はて、それって戦略的なのか?建設的なのか?この本の解釈だと所詮「言葉狩り」でつぶれたんだよね。言い方悪いかもしれないけど、「その竹槍じゃなくて、こっちの竹槍のほうが威力があるんじゃないか」みたいな話に見えてしまうというか・・・。所詮竹槍じゃない。この時代の「元運動家」に「負けた」ことを理解させたいなら、「勝った」ほうを分析して、「そりゃ負けるわな、反省してみようかあ、悔しいけど勉強してみようかな」って方向に納得させるほうが「戦略的」な書き方なんじゃないかなあと思うのですが。

 アマゾンレビューでは田中美津さんのレビューに票が集まっておりますが、そんなに票集まってるってことですでに「戦略的」には負けてるんでは。

 ちなみに私はkogonil_35さんがアマゾンレビューに以下のようなことを書かれているんですが、その感想に近かったです。

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・当時の述懐が列挙されていますが、後藤田正晴氏の見解にブン殴られました。小泉改革で抵抗勢力とされた保守政治家の一部にこそ、統治技術という点ですぐれた「職業」政治家が含まれていたのかも知れません。

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 連合赤軍事件やら東大安田城攻防戦もそうですが、こうした全共闘運動を鎮圧した総大将はだれかということで。後藤田正晴氏ですね。後藤田さんの戦略のほうが100枚くらい上手ですがな。もちろん後藤田さんは「戦略的」だの「あえて」だの言わんよ。ちなみに連合赤軍の警察側には亀井さんもいらっしゃいます。

 「“運動”っていわれると、どうしてバカにされてる気がするのか」

 「日本の社会運動がどうして、一般市民から浮いて見られがちなのか?たとえば“プロ市民”って言葉のように」

 「学生と労働者がいっしょに社会運動を起こして政権ひっくり返すとかあるけど、どうして日本はそこが分断されちゃったの?」

 「なんで、デモくらいじゃニュースにならないの?」

 てなことが例えば「敗北」であり、その原因がこの時代の運動にあると考えるならば、そりゃあ、そう見えるように後藤田さんがほんとに戦略的に動いたからなんだと思いますよ。「あれは政治運動ではないというやり方」みたいな言い方してたような。実際そうでもそこをドライブしたのもきっと後藤田さんですし、という意味では、著者の解釈(というか戦略なら)も後藤田さんという御釈迦様の手のひらのから出てはいないかなあ。だから本のなかで、連合赤軍のときに、遺体を埋め直して順番に発表する警察側の「メディア戦略」にちょっと触れてたり、リンチの事実を知ってたんじゃないの?的書き方をしてるんですが、そういった部分はおもしろかったです。連合赤軍や皇室反対運動について、佐々さんがたくさん著書を書いてますが、そのモチベーションは「この時代の危機管理の技術を、私が言わないと誰もしゃべらないから歴史に残すために書く(大意)」だったりするわけで、後藤田さんにかなり詳しいインタビューをして本を作った御厨貴先生なども、後藤田さん「7割は天国へ持って行ってしまうのだろうな」と言っています。その本を読まれた人はわかると思いますが、かなりつっこんで聞いてますし、その3割部分だけでも十分おもしろいんですけど、後藤田さんは「ここは言ってはいかん」という話はうまーく逃げてるかんじがするんですよね。ご自身が亡くなったときもまわりに知らせたのは葬式終わってからみたいな人ですからね。まさに「死して屍拾うもの無し」。徹底してます。でもいろいろやっていると思うよ。国鉄の労組の力を弱くしたのも後藤田さんなわけですし、労組はやって過激派にはやってないわけないじゃない。当時の人へのインタビューがないって批判もあるようですけど、統治側の話は聞きたいなあと思います。今の自民党の世襲議員は総じてダメっぽいですが、自民党の上の方々が下を育ててなさすぎでないか。このあたりの技術や秘密が継承できてたらあないに劣化はしてないんじゃないかなあ。


 このあたりの「運動」をぜんぜん知らない人にものすごい簡単に説明すると、この本が書いている時代の約10年前に第一次安保っていうのがあって、この第一次安保のときに樺美智子さんという東大の女子学生がデモで死んでしまったのです。警察はそのときにものすごい批判されたわけです。「運動」側は共感された。それに危機感があったわけです。ヒューマニズム的な観点というよりも、死んじゃうと余計もりあがるから。後藤田さんの基本は「権力は抑制的に使わなければ(効果がない)」ということ。日本のソフトな治安技術や考え方を中国に教えたりしてるわけですね。催涙ガス、大盾、放水車、つまり殺さない武器。だから天安門事件のときに佐々さん怒っているわけですね。

 後藤田さんは国民に銃を向けることが、いかにあとあとひっぱるかをわかっているわけです。軍は出さない。どうしても勢いで殺してしまう恐れがあるから。安田講堂のときも、警察が夜中に攻撃しないかったのは、死人が出やすくなるから。まああのとき上から10人くらい飛び降りてたら変わってたんじゃないですかね。連合赤軍のときもそうですが、銃を持っている相手にも、「殺さない」のが基本なわけです。そして「警察は何をやっておるんだーふがいない!」という声が自然にあがってくるまで待つ。そういう声が多勢になれば、あとあとやりやすい。それをわかってやっている。実際、銃を持っている相手にそれなのだから、なんていうんでしょうね、社会学者連中や批評家がいっている「あえて」とか「戦略的」とかと重みと覚悟がぜんぜん違うわけです。実際に本人に爆弾も送られてきてるわけだし。連合赤軍のときには警察官の方が殉職されてますし、後藤田さんたちは遺族の方の面倒もよく見ています。 第一次のときには、国会と取り囲んだ30万人の民に対して、動員できる警察は3000人くらいしかいないわけです。とにかく治安権力が弱すぎるだろ、ってことで地道に統治権力を増強しているわけですね。少ないと追い詰められて無謀な行動に出ちゃうから。ある程度余裕をもっていることが、悲惨なことにならないということ。

 安田講堂のときも、催涙ガスはずっと使ってなくて10本に1本不発弾で、神田カルチェラタンのときは弾がなくて、「撃つぞ!」って格好だけしてたとか・・・・学生が道の敷石はがして投げるから、へとへとになりながら道に石全部はがして、公園に積み上げたとか、そういうことを佐々さんが書いておりますが、警察の必死さや地道さや具体性のほうが、そりゃあ読んででも明らかに共感得るわなーと思わざる得ない。ちなみに科捜研やパトカー整備したのも後藤田さんです。SATも警察予備隊も。自衛隊の1%枠突破させたのも。全部じゃん(笑)!

情と理 -カミソリ参謀回顧録- 上 (講談社+α文庫)/後藤田 正晴 」から。

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 柏村信雄警察庁長官が、アイゼンハワー米大統領が訪日したら責任を負いかねるということで、アイゼンハワーの訪日を中止してもらえないかと進言したわけです。警察というのは、与えられた条件のなかで治安権力を投入するというのが使命なんですよ。事前に行政に関与することはやらない。にもかかわらず当時の柏村長官は、こういう進言をしたわけです。
 そのときに自衛隊を出すということがひとつの考え方でした。もうひとつは、ある有名な政治家が、当時のテキヤその他の暴力団を警戒に当たらせるといった無茶な意見まで出したんです。しかしそれは警察庁長官は絶対にウンと言わない。自衛隊を出すということについても警察はウンと言わないし、時の防衛庁長官だった赤城宗徳さん、あの人がウンと言わない。そういったことで事なきを得たんですが、あれはひとつ間違えば革命的な事態になったと思います。
(略)
 池田内閣が「寛容と忍耐」という標語で緩和政策を採ったんですね。同時に「所得倍増計画」です。これで国民の気持ちが変わった。この政策がだんだんと浸透していって、国民が次第に生活のゆとりを持つことが可能になってきた。その結果、平穏化してしまって、少なくとも戦後二十年近く、日本にいつ何が起こってもおかしくないという雰囲気は収まってきたということですね。

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 日本でなんで革命起きなかったのですか?という質問については、何度も危険な状況はあったと答えていらっしゃいますね。
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 国民の少なくとも八割が中流意識を持った。ということは今さら自分の生活を大きく変更することは欲しない。そういう日本の国づくりが、国民が革命勢力についていかない大きな理由になったのではないか。特にその中で、いまから振り返って評価しなければならないのは、岸内閣の安保条約の改定がひとつ。これは大変な騒動になったわけですけれど、そのあとにできた池田内閣が、十年先のことを考えて政策を実行した。ちょっと第一ベビーブームの人たちが労働戦線に参加する時代を迎えるわけですね。そのときに、このままでは若い労働力、学校卒業者が失業者となって巷にあふれるおそれがある。これは日本の政治を考えた場合、土台がひっくりかえるおそれがある。そこでわかりやすい標語で、財布の中身を二倍にしますよという「所得倍増計画」を池田内閣が打ち出した。(略)

 例えば大須事件というのがあった。名古屋だな。大阪では吹田事件があった。福島県の平事件(昭和24年)とか、それからこれは僕が直接取り締まりをやったんだけれど、鉄道の破壊が至るところで行われた。三鷹事件(昭和24年)とか、全国的に交通網の破壊があった。それから山村工作隊の活動が展開された。

 このときは、まだ国民の生活は復興していないわけですから、政治の対応いかんによっては革命が成立したと思いますね。その当時は治安力というのはほとんどないわけですよ。進駐軍はいないわけですからね。これはやはり危険な状況だったと思います。

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 歯をくいしばっても安保のときは自衛隊をださなったということはほかの部分でも書いてらっしゃいました。

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 戦後、今日まで警察を運営していく基本的な考え方を申しますと、ひとつは「セキュリティ・ミニマム」ということです。その時々の犯罪情勢によって、警察力というのはたいへん不足することがあるし、そうかといってあまりにも警察力過剰というようなこともありうるわけです。ですから、警察の人員と装備については、犯罪現象の態様からみて、ミニマムに止めるべきであるという観点に立つわけです。そこで警察としてはいろいろ研究をして、住民500人に一人の警察官数が必要であると。これは諸外国との比較で考えると、それでも警察力は少ないんです。ところがその当時は、7、800人に1人だったと思います。だからこれでは駄目だということで、35年頃まで少しずつ増やしていましたがまだ足りないということで、その後、500人に一人にしよう、ということになった。(略)

 それから、装備としては機動力は持たせる。しかし集団犯罪の鎮圧用の機材は催涙ガスまでにしようと。銃器が拳銃が中心で、自働小銃までは軽火器としてはよかろうと。しかし、これは都道府県警察にせいぜい5丁とか十丁で止めるといったようなだいだい基本的な考え方が今日まで守られているんです。これが「セキュリティ・ミニマム」の思想です。その装備、機材を運用して、どこまで警察はやるかということになりますと、専門語で言うと、「警察比例の原則」ということをやかましく言っていたわけです。要するに相手方の対応によって、最小限の警察力しか使わない。圧倒・殲滅ということはしない。そして長期に治安を維持する要諦は世間の動向というのを見て、目の前の事態を叩き潰すということはできるわけですが、それは避けるということで、できるだけ我慢する警察の運用をやるということで「警察比例の原則」ということは二番目です。その根底に警察としては絶対に自衛隊を使わないという大原則を立てていたんです。
 そこで二十万人のうち十万人は一般警察、残りの十万人はいざというとき集団的な革命行動に対して対応できるという考え方です。ですから、第一次安保騒動のとき、政府がたまらなくなって、どうしても自衛隊を使う、ときたわけですが反対したわけです。自衛隊は外部、外国からの侵略を受けたときに初めて国民の抵抗組織の中核部隊として外敵に対して武器を取るのだ、国民に対して自衛隊の鉄砲は使わない、それはいけない、ということが警察の基本方針だったわけです。

―自衛隊の銃を国民に向けさせるべきではない、ということですね。
 そうです。第一次安保の当時の警察力というのはセキュリティ・ミニマムからみても六割ぐらいの力しかない。そうすると警察力の行使が行き過ぎることになるんです。余裕がないからかえって悪い。局面ごとで極端な警察の力の使用が出てくる可能性があるんです。そういう傾向は第一次安保のときはなきにしもあらずでしたね。私は自治庁から横で見てたんですね。あのとき東大法学部の学生が五、六名でしたか、私の官舎に乗りこんできたんだから。助けてくれ、と言って。何もしていないのに仲間が留置場にぶちこまれたというんですよ。あくる日警察に電話して、あれを放せ、と言って出してあげましたが。そういうようなことがありました。

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 こういう人が自民党に50年くらい君臨してたんですから、そりゃあ安心感ありますよ。今の保守政治家の厳罰路線(後藤田さんいうところの“右っぱね”ですね)も違うわけですよ。日本の治安の良さが達成できたのは、「厳罰化」の統治技術じゃないんです。忍耐につぐ忍耐。佐々さんが書いているけど、基本は「7回捕まえたら7回釈放」、「逃げ道を作っておく」、「逃げたら追わない」とかいう、「甘いぞーもっとやれー警察!」といわれるようなソフトな統治技術なわけですよ。裏ではいろいろやってるとも思いますが。

□学生運動を管理するための大学管理法について
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 自民党というのは何かやると、党の中から罰則強化が必ず出てくる。それに終始反対するのが警察なんですよ。「罰則運用というのはどれくらい難しいものか、注意しなければならないものか、あなた方はご存知ない。罰則さえ強化すれば事件が減ると思っているのは、基本的に間違いだ」と。これは警察の考え方なんです。今でもそういう考え方だと思いますよ。ところが自民党というか、要するに素人は、罰則をむやみに強化したがるんだ。そのうちおのれがひっかかるんだけどね。それで保利さんに呼ばれた。そして、党は大学管理法の規定を入れろと言われるけど後藤田君どうだい、という。僕は言下に、罰則強化をやっても駄目だ、と言ったんです。なぜだ、と言うから、ああいうのは世の中をこうしたいという確信犯が中心なんだから、確信犯にはいくら罰則強化しても、かえって確信が強くなるだけで逆効果になる。大学の先生が管理するのに必要最小限の罰則をつけさえすればいいのであって、あとは管理権者の権限をある程度強化すればよいと、と言った。本当をいったら、管理権者を辞めさせるぐらいにすれば、それでいいんですね。罰則をつけたってしょうがないんだ。(略)それで、秦野君が呼ばれて行ったんだ。秦野君がまた同じことを言ったらしい。それで保利さんが、それを頭に置いて党を押さえたんです。だからあれには罰則らしい罰則はないんですね。
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 効果がない厳罰化には与しない。ちなみに秦野さんは、全共闘時代の警視総監です。私大出身者(それも夜間部)で初の警視総監でたたき上げ。

□オイルショックのときに売り惜しみ企業への対応について。
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 問題は罰則なんです。その罰則を作るときに、僕は党に呼びつけられたんだ。自由民主党の中には
厳罰に処すべしという意見が強い。それで呼ばれる前に田中さんに言った。総理、罰則があまり強いのはいけませんよ、と。なぜだ、と言うから、罰則が強いと構成要件をどうしても厳しく書かざる得ません。そうなると、取り締まり官庁は動きにくくなる。だから逮捕さえできるなら罰則は一番軽いのがいい、と言った。それじゃあ駄目じゃないか、と言うから、いや、そんなことはない、今やっているのは大企業なんだから、逮捕して大企業名を発表する、そうすれば一発で、国民の敵だ、ということになって仕事ができなくなる、だから恐ろしくてできませんよ。
 あまり刑務所の塀を高くするのはあかん、ということです。そうしたら田中さんは、わかってくれた、それでやれ、ということだったけれど、党が聞かないんだよ。それで党に呼びつけられて、罰則を重くしろなんて盛んに若い代議士が言っていた。だから、あんた罰則を運用したことがありますか?と聞いたんです。そんなに人は縛れるもんじゃないんですよ、だからこういうときには容易に取り締まり機関が権限の発動ができて、あとは社会的制裁を加える形でやるのが賢明な方法ですよ、と言って僕は蹴飛ばしたんです。
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 そして、ただの厳罰化反対論者ではなくって、民の怖さをよく理解されて、そこを利用したほうが官庁が動きやすいという戦略です。

 危機管理の具体的な技術が知りたい方は佐々さんの本を。具体的で以下の3冊がおもしろいんではないかと。「東大落城」がいちばん軽く読めるかな。さすがに「あさま山荘」は悲惨。佐々さんも書いてますが。「東大落城」は「警察戦国時代」なので、ほんとに戦国時代みたいなベタベタな戦闘と戦略です。それにあさま山荘に比べて警察がに寛容さというか余裕があるんでしょうね。機動隊員の弁当手配のカラクリとかほんと大変でしたなあというかんじで笑えました。機動隊員の弁当をこうまでして手配した警察の現場の原動力となるのが「リーダー」や「戦略」であって、心象風景をいくらさぐってもきっと「負けの理由」は見えてこないと思いますよ。

連合赤軍「あさま山荘」事件―実戦「危機管理」 (文春文庫)/佐々 淳行

東大落城―安田講堂攻防七十二時間 (文春文庫)/佐々 淳行

菊の御紋章と火炎ビン―「ひめゆりの塔」「伊勢神宮」が燃えた「昭和50年」/佐々 淳行



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