「地下で生きた男」 | F9の雑記帳

「地下で生きた男」



 リチャード・ライト「地下で生きた男」(『地下で生きた男』(上岡伸雄編訳、作品社)所収)を読みました。
 主人公の黒人男性フレッド・ダニエルズが警察から突然犯してもいない殺人の罪で逮捕され、拷問を受けた上に自白書にサインしてしまったものの、隙を見て逃げ出し地下の下水道に隠れると言う小説の序盤は同情するしかないなと思いましたが、中盤で人の弁当や道具箱あるいは保険会社の金庫から金を盗む等して段々と罪を重ねていく様を読み、主人公の心理の変化の描写には驚いたものの「この主人公、何やっているのだろう?」と何だか呆れてしまいました。
 そして、終盤の主人公が警察署に赴きかつて自身に罪を着せた男達に罪を告白した後に迎える最後については、男達の恐怖も合わせて良く理解できましたからだと思いますが、それ程悲しくなりませんでした。
 しかし、この『地下で生きた男』の半分近くを占めるこの小説に関して、巻末の「編訳者あとがき」にある通り、原稿を持ち込まれた出版社が「内容が衝撃的すぎるということで、出版を拒否した」(373頁)ため、作者は前半の拷問の部分を削除した上後半も部分的に書き換えて雑誌発表にこぎつけたというのは至極もっともな事だなと思いました…。