本日の花木は、今年の2月から3月に滞在したバンコクで撮った『ワルナスビ』(悪茄子)です。4月1日に投稿した『瑠璃色蔓茄子 』と同科同属の仲間ですが、学名の異なる蔓性植物です。
❐瑠璃色蔓茄子の学名“Solanum jasminoides” ❐悪茄子の学名“Solanum carolinense”
日本の園芸店の中には、『悪茄子』を、『山保呂志』(ヤマホロシ)の花名で販売する店がありますが、これは『悪茄子』の花名を意図的に避けた流通名だろうと思います。因みに、『ヤマホロシ』の学名は“Solanum japonense Nakai”であって、『悪茄子』の学名“Solanum carolinense”とは異なります。
悪茄子(ワルナスビ)
日本の『悪茄子』は、6月頃から9月にかけて開花すると聞いていますが、南国タイでは乾季(寒季)が終わって暑季に入る2月末から3月にかけて咲き始めます。開花期は、『瑠璃色蔓茄子』も『悪茄子』もほぼ同時期です。
樹高1.5m~2mの悪茄子の花木
『瑠璃色蔓茄子 』の花色は紫一色だけですが、『悪茄子』の花色は、咲き始めが薄紫色で、時間経過とともに白色に変化します。それぞれの開花時期が違うために、紫色と白色の花が同時に咲いているように見えるのが“いとおかし”といった趣を感じさせます。
葉縁が波打つ悪茄子の葉
『悪茄子』(ワルナスビ)の葉の形状は、葉縁が大きく割れたように波打っていて(上掲写真)、『瑠璃色蔓茄子』の楕円形状の葉(下掲写真)とは明らかに違います。
『瑠璃色蔓茄子』の楕円形状の葉
『悪茄子』の球形果実は、秋が近付くと黄色っぽく熟して、一見するとプチトマトのようになるようです。しかし毒性のソラニンを含んでいることから、家畜が中毒死したとの報告もあるらしく要注意です。
『悪茄子』(ワルナスビ)の名前から想起すると、日本が原産地かと思ってしまいそうですが、ググってみると米国南東部のカロライナ周辺の草原が原産地でした。家畜の糞などに混入した種子が不作為に移出されて日本を含む全世界に分布したと考えられています。
原産地は北アメリカ南東部
土壌に落ちた『悪茄子』の種子が着生して芽生えた地下茎は、垂直方向や水平方向に向かって急速に繁茂するそうです。一度繁茂してしまった地下茎を完全に駆除するのは、除草剤でも不可能に近く、たとえ地下茎を耕耘機で切り刻んだとしても、その欠片から発芽してしまい、今まで以上に増殖してお手上げ状態になってしまうのだとか。
『悪茄子』の和名からも此の植物の凄まじさが想像できますが、英語名の『Apple of Sodom』(ソドムのリンゴ)や、『Devil's tomato』(悪魔ののトマト)からも、此の厄介な植物の獰猛さが分かります。
英名:Devil's tomato (悪魔ののトマト)
和名の『悪茄子』の命名者は、高名な植物分類学者の牧野富太郎先生でした。牧野先生の著された著書『植物一日一題』の中に次のような一節(要約)があります。
「見かけによらず悪草で、年を逐うてその強力な地下茎が土中深く四方に蔓こり始末におえない」
「愛想を尽かして根絶させようとして、その地下茎を引き除いても引き除いても切れて残る」
「切れ残った地下茎から盛んに芽が出て来て、今日でもまだ取り切れない」
「隣の農家の畑へも侵入するという有様で、イヤハヤ困ったもんである」
「綺麗な花が咲くとか、見事な実が生るならともかく、観るに足らないヤクザものだから仕方ない」
「こんな草を負いこんだら災難だ」
「始末の悪い草、利用のない害草に“悪茄”とは打ってつけた佳名であると思っている」
牧野富太郎先生が「悪茄子」(ワルナスビ)と命名されたのは、1906年(明治39年)でしたが、その後、「鬼茄子」、「荒地なすび」、「野原なすび」の別名も生まれています。
1980年代には、「外来生物法」によって、“要注意の外来有害雑草”に指定されています。
参考:ワルナスビの植物分類名
科名:ナス科 Solanaceae
属名:ナス属 Solanum
種:S.carolinense
学名:Solanum carolinense L.・・・(意味=北米キャロライナ地方のナス属)
和名:ワルナスビ(悪茄子)
別名:、「鬼茄子」、「荒地なすび」、「野原なすび」
タイ語名:มะเขือพวง?
英名:Carolina horsenettle・・・キャロライナ地方の「うまいらくさ」
別称:Apple of Sodom(ソドムのリンゴ)、Devil's tomato(悪魔ののトマト
原産地:北米キャロライナ地方



