山口県大島では船霊さまが枕箱について陸に上がったという伝説もあり、船の中での枕箱には双六のサイコロを入れるという地方はかなりある。

福岡県遠賀郡芦屋町などでは節分の豆を枕箱に入れておいて、荒天で船の方向が判らなくなった場合に、この豆を撒くとよいと俗信されていた。

奇妙なのは船霊の御神体の中にネズミの糞や菊の実、さらに穴あきの十二文銭は特に墓地で拾ってきたのがよいとする地方があると『日本宗教事典』にある。

漁民は漂流死体をエビスとよび、大漁の神と鄭重にあつかうなど不浄なものを忌避しないことはどうもよく理解しがたいが、船霊として女性の髪や人形を用いるのは、人柱伝説とも関連するのではなかろうか。

船は家と同様に霊が宿る容器のようなもので、枕も語源説のところで記したように、霊が宿るものとする俗信があったから、船霊を枕箱に納めて船霊座に安置し、船の安全を守護してもらおうとしたと考えられる。

あるいは、筒に納めた船霊は家庭における神棚のように船全体の守りとし、枕元に常に置く枕箱は各自の貴重な私有物入れであり、救命道具的な役目もあったことを考えると、これは個人の安全を祈るお守り入れでなかったろうか。

ただし日本海沿岸や瀬戸内海の一部、奄美群島などではこの信仰はあっても、船霊さんの御神体がない地方もあり、海の信仰は回船を通じて伝播しやすいものだから全国的に普及したのは、それほど古くないだろうという説もあり、容易に決着はつかない。



伊勢市岡本町一丁目、たしかに「お茶」と看板は出ていたが、片岡さんのお宅は戦後に茶屋を始めたので、戦前は伊勢名産の春慶塗の重箱などをあつかっていて、江戸時代から船霊さんを奉製してきたという。

なぜこの店で奉製したのか知らないが、戦火で焼けるまで「船魂一件」という書き付けがあり、代々秘伝になっていたそうだ。

そして昔は紀州や志摩から毎年、7~80体もの注文があったという。

ここでの船霊さまは、サイコロ2つと金・銀紙の人形と扇子、小判などを和紙で包むそうだ。

船霊の御神体は各地ほとんどがサイコロ2個と男女の人形、女の毛髪、それに櫛や鏡、銭十二文など。

紀州ではナギの木の葉も入れる。

ナギは凪に通じるからである。

普通には船の中央、多くは帆柱を建てる筒とよぶ部分に船霊さまを納めるが、昔は枕箱に入れたものだと聞く。



動物と日本人のかかわりあい、特にサメを中心とした魚と人間というテーマの民俗調査をしていたので、各地の漁村を取材することが多く、船を守る神として船乗りたちに信仰されている船霊信仰についても関心をもってきた。

しかし、私は宗教者の一人として実際に信仰されている船霊(船玉・船魂)を拝見させてくださいとは恐れ多くて、どこへ行っても言えなかった。

ところが造船にかかわっている知人が有名な俳優さんの船が出来たので、進水式に先立って船霊さまを納めて清祓いする儀式を私に奉仕してほしいと依頼してきた。

「いいですよ」とは言ったものの、さて待てよ、伊勢の神宮にお仕えする神職は神域以外の祭典は奉仕しないのがたてまえ、いくら有名な俳優さんの依頼とあっても私がいたすわけにはいかない。

そこで浦の神主さんを紹介したのだが、伊勢市の大湊町は南北朝時代に南朝の軍事要地で、ここでの造船と運船の技術はすこぶる高く、すでに神功皇后の三韓遠征の船はここで調達したという伝承があり、義良親王が奥州へ下るときも、大船53艘を造り、織田信長の軍船や海外貿易の御朱印船、さらには文禄元年の秀吉の征韓の際に、鳥羽城主九鬼嘉隆から軍船「日本丸」の造船の命を受けている土地である。

その大湊で造った船にも船霊さまを納める慣習があり、船霊さまはお茶屋さんで買うと以前に聞いたことがある。

なぜお茶屋でと私は不思議に思ったが、その時はあまり気にとめなかった。

ところが今度の新造船に納める船霊を本当にお茶屋さんに求めに行くというので、これは聞き捨てならないと調べに行った。



生体の恒常性維持に重要なはたらきをもつと考えられる睡眠。

そのメ力ニズムを、睡眠を制御する脳部位に作用する神経伝達物質、およびそれを調節する「睡眠物質」の新しい知見をもとに探ってみる。

われわれのほとんどは、朝起き、日中活動し、そして夜眠る。

しかし活も、つねに単調ではなく、なかなか眠れない夜や、疲れてすっと眠りもっと眠りたいと思う日などさまざまである。

このような、日々の睡眠、このような日々の生活に疲れてすっと眠りに陥ってしまう日々の睡眠の背景にはどのようなメカニズムが潜んでいるのであろうか。

さて、徹夜をした翌日などには、眠気が強くなり、ベッドが恋しくなるが、こういった睡眠への欲求は何を意味するのであろうか。

眠気を解消する睡眠の機能を明らかにする目的で、実験的に夜間睡眠の一部、または全部を取らせない「断眠」の研究がなされてきた。

この研究の目的は、断眠前後の生体の変化や断眠後の睡眠を観察し、これにより睡眠の機能を推測しようというものである。
睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠という異なる状態があり、これら二種類の睡眠を調節する脳部位が前脳基底部から脳幹にかけて分化している。

さらに、睡眠調節機構自体にも二種類ーニューロン活動にもとつく神経機構と睡眠物質にもとつく液性機構lIあり、両者の相互作用のもとに睡眠覚醒状態が動的に修飾されている。

睡眠調節のメカニズムには二つの基本法則がある。

第一の法則とは、睡眠は一日を単位とするリズム現象であり、脳内に存在する生物時計に管理されているというものである。

第二の法則とは、さきに述べたホメオスタシス機構による調節である。

この二つの法則はたがいに協調しており、相補的な関係にあるが、ほんらい生体が進化の過程で別々に獲得したものとみなされ、それぞれ独立に作用を発現することができる。

そして、後者のほうがより新しい高度の技術であり、より適応性に冨んでいると考えられる。

このように複雑な二重構造の睡眠機構が高等動物に発達しているのは、高等な脳にとって、このような睡眠がどうしても必要になったからであろう
深いノンレム睡眠が抑制されると、たいせつな身体機能が阻害されることになる。

また、睡眠は免疫増強過程と密接にかかわり合っている。

生体がウイルスや細菌に感染すると、それらが体内で分解されて生じた物質が、インターロイキンーやインターフェロンなどのサイトカイン類の生産を促進して免疫学的な生体防御反応を誘発するとともに、発熱とノンレム睡眠をも誘発する。

それゆえ、感染後に出現する眠りは、生体防御ないし免疫増強の重要な一翼を担っているのである。

ストレス状態では精神的緊張があって、不眠症が起こりやすい。

このときストレスホルモンとして脳下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモンは、睡眠を抑制する作用がある。

ところが、このホルモンが分解されると、その分解産物は、一転して睡眠を促進する作用を示すことになる。

こんなふうに、生体は異物や毒物、さらには代謝産物までも活用して、たくみに眠りを調節している。


まず、あいさつはあなたから。

おはようございます、おやすみなさい。

親子で、声をかけ合いましょう。

兄弟で、姉妹で、夫婦で、「おはよう」あいさつは脳に作用して、体内時計を整えます。

「おはよう」
と聞くと、ぼんやりとした脳をハッキリさせる働きがあります。

「おやすみなさい」
毎日続けていると、その声を聞くだけで何となく体が眠りの準備を始めるようになります。

騙されたと思って試してみてください。

治療方針を決定するには、問診は欠かせません。

どのような睡眠障害が存在するのか。

また、どのような条件で睡眠障害が現われるのか。

まず初めに問診、問診表、睡眠日誌などによって、睡眠にどのような問題があるのかを特定します。

このプロセスを「睡眠障害のスクリーニング」と呼んでいます。

一般にスクリーニングとは、「ふるいにかけて、問題点を抽出する」という意味です。

医学的には、患者さんがいくつかの質問に答えることによって、医師は問題点を特定し、適切な治療方針を決定します。

スクリーニングを経ることで、患者さんの訴えを医学的に具体化していくのです。

また、眠っている問の状態を患者さん自身が把握することが困難な場合があります。

たとえば後ほど詳しく説明しますが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)などは、本人がまったく症状に気づいていないことが多いものです。

また、実際には眠っていてもまったく眠っていないと感じてしまう(睡眠状態誤認)ケースもあります。

この場合は、一緒に寝ているパートナーからの情報も重要になります。

眠障害の病名・症状は相当の数に上り、多岐にわたっています。

この場合、素人が勝手に自己診断し、自己流で治そうとするのは大変に危険なことなのです。

きちんと専門医の診断を受けたいものです。

これから代表的なものを取り上げ、分かりやすく解説していきます。

もしあなたが、何らかの睡眠のトラブルを抱えているとしたら、どれに当てはまるのかを確認してみましょう。

専門医の診断を受ける際の参考にしていただければ幸いです。