「やがて悲しき」忠臣たち | 平野幸夫のブログ

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ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。


テレビ画像は瞬時にして発言者の
人品骨柄を映すから怖い。参院選
公示前の党首討論(日本記者クラ
ブ主催)の最後に、安倍晋三首相
は「印象操作はやめた方がいいで
すよ」と逆切れしながら、答えを
拒否した。自分にとって不都合な
ことでも真摯に応えるのが出席者
の責務であるのに、質問者に敵意
を露わにする。驕りきった卑しさ
がにじみ出ていた。そんな人物が
率いる政権が相次いで、責任を転
嫁し「忠臣」たちに詰め腹を切ら
している。専横ぶりと非情さ。ま
るで戦国時代の暗愚の殿様を見る
ようだ。



霞ケ関の官僚らが震えあがる人事
が一昨日断行された。一連の統計
不正で政権を傷つけまいと奔走し
た厚労省官房長の定塚由美子氏が
格下の人材開発統括官に更迭され
た。不正に関わった担当官への事
情聴取に立ち会って中立性が損な
われたと野党から指弾された官僚
だが、官邸と良好な関係にあると
される鈴木俊彦事務次官は留任が
許された。国会の質疑を振り返る
と、確かに定塚氏の答弁は著しく
中立性に欠け、政権擁護が露骨だ
った。しかし、それは、現政権の
「統計不正はなかった」との抗弁
に沿った言動に過ぎなかった。そ
んな「忠臣」をも切り捨てる非情
さの方が際立つ人事だった。俳人
松尾芭蕉の句にに「おもしろうて
やがて悲しき鵜舟哉」という文言
があるが、有権者に背く言動をし
て使い捨てられた官僚の末路に重
なる。


ほかにも「年金不足2000万円
」報告を提出した金融庁の三井秀
範企画市場局長が勇退させられた
。ところが上司にあたる同年の遠
藤俊英長官は続投となった。遠藤
長官は麻生太郎財務相の覚え目出
たい人物とされ、あからさまな「
えこひいき」人事と取り沙汰され
ている。国会審議も許さない「安
倍・麻生コンビ」の専横政治が収
まる気配はない。



異様な人事はまだある。安倍首相
子飼いのフリーライター、山口敬
之氏による伊藤詩織さんレイプ事
件で、裁判所が認めた山口氏の逮
捕状をもみ消した当時の警視庁刑
事部長、中村格氏はその後警察庁
ナンバー3の官房長に栄転してい
たが、次期長官人事で次長に就任
する。次長職は長官職が約束され
ている出世コースの頂点に近い。
レイプ事件もみ消した警察官僚が
全国の警察組織のトップに座ると
いうおぞましい人事がまかり通ろ
うとしている。こんな国に住んで
いると思うと、憤怒が収まらない


改めて党首討論である。読売新聞
の橋本五郎編集委員の改憲前提の
議論誘導が際立った。憲法審査会
の審議に否定的な野党攻撃が露骨
で、読売の社是に合わせた質問な
ど他のメディアが看過してはなら
なかったはずだ。日本新聞協会会
長人事が2期連続で読売出身者に
なったのも、改憲論議を促進させ
ようとする「橋本質問」の背景に
なっている。司会者も読売系の小
栗泉日本テレビ政治部長。国会の
予算員会と違って、緩い質問ばか
りで与党を利する運営ぶりが目立
った。最後の場面以外、安倍首相
に余裕が垣間見えた。安倍政権の
「メディア分断」が奏功した結末
でもある。枚挙にいとまがないほ
どの首相の「フェイク答弁」を問
いただす気構えに欠ける記者ばか
りでは、政権の罪状はふたをされ
たままだ。


       【2019・7・4】