必見、「新聞記者」が衝く闇 | 平野幸夫のブログ

平野幸夫のブログ

ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。




フィクションなのに、今起きてい
る現実を照らし権力犯罪が個人の

人格を壊す怖さとそれへの怒りで

身を震えさせる。昨日から全国上映
されている映画「新聞記者」は国
家権力を私物化する安倍政権の正
体をリアルに描く。主役の女性記
者に扮したシム・ウンギョンと内
閣府に出向中の外務官僚役の松坂
桃李が国家権力の非情さに打ち負
かされそうになりながらも、果敢
に立ち向かう姿が共感を呼ぶ。参
院選前、安倍政権の正体を知るた
めにも必見の映画である。


欧米の「記者もの」と呼ばれる映
画はほとんど見てきたつもりで、
若い人に「大統領の陰謀」など数
々の名作を紹介しているが、正直
元記者だった立場から無条件で見
てほしい日本映画はなかった。そ
れが、この「新聞記者」はなお未
解明の森友・加計疑獄をベースに
し、既視感を覚える中、誰もが知
るシーンやセリフを丁寧に積み重
ね同時代性があり、ためらいなく
推薦できる。


何より現在進行形のこの国の政治
の裏側を遠慮なく描いていること
に大きな意味がある。映画では「
東都新聞」に名を変えているが、
実際は菅義偉官房長官とのバトル
で注目された東京新聞社会部の望
月衣塑子記者をモデルにしている


実は相手が正直に応対するまで何
度も同じ質問を繰り返すやり方を
、手放しで賞賛しようとは思って
いなかった。不正や腐敗をただす
なら、相手が言い逃れできない新
事実を紙面で掲載することしか局
面を変えることはできないと自ら
言い聞かせていたからだ。それで

も、彼女の不正に果敢に対峙して

いる姿勢には、ずっと拍手を送っ

ていた。



映画は望月記者や前川喜平元文科
事務次官らのニュース映像が画面
のバックに流され、進行するスト
ーリーが現実の一断面であると思
わせる。随所で「こんな映画をよ
く作ったな」と思わせる骨太さは
、この数年間の安倍政権がまき散
らす害毒の元凶である官邸中枢の
人物の暗躍ぶりを見事に照射して
いるからだろう。


松坂桃李扮する若手官僚は出向先
の内閣府の参事官から政権に敵対
する人物を中傷する情報の拡散を
命じられ苦悩する。ラスト場面で
危機の淵に立たされた松坂の演技
に、思わず「死ぬな」と心で叫ん
だ。それ以前に自殺してしまった
かつての上司が森友事件で自ら命
を絶った近畿財務局職員と重なっ
たからでもある。


政権の腐敗を覆い隠そうとする非
情な参事官を田中哲司が見事に演
じる。安倍政権の多くの罪悪はモ
ラルや矜持を失った官邸中枢の「
官邸ポリス」と呼ばれる幹部の立
ち振る舞いによってもたらされて
いる。



劇中の参事官は安倍首相の「お抱
えジャーナリスト」山口敬之氏に
よる伊藤詩織さんレイプ事件もみ
消しに関わり「官邸のアイヒマン
」とよばれる北村滋内閣情報室長
や前川次官の失副長官脚情報拡散
に関与した杉田和博官房副長官ら
とダブって見える。映画「万引き
家族」でカンヌ映画祭パルム・ド
ール賞を受賞した是枝裕和監督は
「保身を超えて持つべき矜持につ
いての映画」と評した。それは堕
落した官僚たちだけでなく、権力
を監視する気概を失ったメディア
にも向けられている。


   【2019・6・29】 


(写真は映画のパンフレットから)