記憶もモラルも失ったはずの首相
側近がまたあすの国会で答弁に立
つ。加計学園の新獣医学部新設に
あたって、官邸で「首相案件」と
述べ、同学園や愛媛県職員に助言
していた柳瀬唯夫・元首相秘書官
は証人喚問ではなく、偽証しても
罪に問われない参考人として呼ば
れた。審議拒否を続けていた野党
が安易に妥協したためだ。国有地
の不当払い下げへの関与が明確に
なった安倍昭恵夫人の招致や暴言
を繰り返す麻生太郎財務相の辞任
を拒否され、欠席戦術に限界が見
えたというのが理由という。野党
は一体何をおそれているのか。国
会空転の原因を作ったのは、与党
である。与党は恫喝気味に解散を
言い始めたが、受けたらよいでは
ないか。選挙になれば、支持率20
%台の安倍首相をトップとする与
党の議席は激減するはずである。
8日の朝刊各紙の政治欄に奇妙な
解説記事が載った。「折れた野党
」という見出しの後、政府与党が
柳瀬氏を参考人招致し、柳瀬氏が
加計学園関係者との面会を認め、
「愛媛県職員らと同席していたか
もしれないが、記憶にない」と答
弁してもらう案の検討に入ったい
い、それに野党が飛びついたとい
うのだ。
あまりにどうかしている。人の記
憶が政党間の取引になってしまっ
た。そこには、政治倫理のかけら
さえみえない。柳瀬氏は与党の振
り付け通り動くロボットか操り人
形か。「答弁してもらう案を検討
」と書いてもっともらしく解説す
る政治記者の頭の中ものぞいてみ
たい。政治報道の堕落ぶりを示す
証左だ。「正常化、与党ペース」
と言われて唯々諾々と応じた野党
の無策さにも憤りが募って仕方な
い。一部メディアの奮闘によって
、安倍首相による「国家の私物化
」を裏付ける多くの物証や証言が
集まっておきながら、追及しきれ
ない甘さは、ひとえに議員らの調
査不足と職を賭ける覚悟のなさか
ら発する。
そもそも、証人喚問を要求してい
た昭恵夫人の出席を求め続けない
のか許したのか。安倍首相の自宅
まで出かけ、訪米を阻止するぐら
いのパフォーマンスを繰り広げる
べきだった。訪米の同行を許した
柳瀬氏にも強く、渡航断念を迫る
べきだった。政府専用機の機中は
疑惑の3人が密謀する空間になり
果てた。こんな安倍首相の専横ぶ
りを許した段階で、その先、足元
を見られた国会戦術を駆使される
ことは分かっていたはずだ。一端
妥協してしまうと、次々手を打た
れてしまうのである。
腰砕けが目立ち、戦略なき野党に
あまり期待できないが、まだ攻め
手は多いはずだ。当面のターゲッ
トを「セクハラという罪はない」
などと、何度も野卑な言動を繰り
返す麻生財務相に絞ったらどうか
。麻生氏が釈明すればするほどぼ
ろを出す。特に女性蔑視発言は大
半の女性の反感を募らせた。麻生
政権末期に自ら崩壊の引き金を引
いたのも、麻生氏自身だった。麻
生財務相に辞任を求める声が高ま
れば、政権はかばい切れなくなっ
て、首相をも窮地に追い込める。
あす答弁に立つ柳瀬氏にも、ぜひ
加計孝太郎氏との交遊ぶりをただ
すべきだ。富士山麓・河口湖畔に
立つ安倍首相の別荘に一緒に宿泊
し、ゴルフに興じたのは、あまり
知られていないが、安倍夫妻、加
計氏、萩生田光一氏らとバーべキ
ューを楽しむ写真がネット上に広
がり、昨年の国会で取り上げられ
た。加計氏が「安倍首相との交遊
に1億円を使った」と打ち明けた
とういう週刊誌記事を裏付ける材
料の一つだ。政官の利権まみれの
腐敗を示す一端である。
野党は癒着を示す傍証をもっと集
める努力をしなければならない。
かつて政権腐敗を究明したロッキ
ード事件の特別委員会やリクルー
ト事件でも、野党議員は独自の追
及材料を持っていた。今はあまり
にもメディアの既報頼りで、答弁
対策を練られてしまっている。
寝る時以外、安倍首相と公私を共
にするのが秘書官で、柳瀬氏がど
んなに言い繕っても、加計学園関
係者との官邸での面会は、安倍首
相自ら会ったと同じとみなされる
。まさに安倍首相の「加計ありき
ではない」という発言の信用性が
が根本的に覆されるのである。
国会招致を前に、柳瀬氏には今一
度、全国からその話が聞きたいと
講演希望が殺到している前川喜平
前文科省事務次官の言葉をかみし
めてほしい。
「記憶を取り戻した柳瀬元秘書官
には、真っ当な公務員として、真
実を包み隠さず話してほしいもの
です。憲法15条第二項には『すべ
ての公務員は、全体の奉仕者であ
って、一部の奉仕者ではない』と
わざわざ書いてある」(前川氏の
「憲法とわたし」講演より)
【2018・5・9】