「私は謝らない。(大事なのは)
正しいか、偽りかではなく、力を
手にするか、しないかだけだ」
安倍晋三首相が大好きな米国の政
治ドラマに登場する大統領が自分
の信条を口にした言葉だ。自ら招
いたスキャンダルの責任回避をす
るため公聴会で発したが、有権者
の声にまったく耳を傾けない点が
、安倍首相の言動に多く重なる。
「安倍政権での改憲反対」が約6
割に上った世論調査に、首相は「
大変議論が深まってきた」と強が
って見せた。週明けの国会では、
柳瀬唯夫元首相秘書官が加計学園
関係者との官邸での面会を認める
意向という。崖っぷちに立った安
倍首相がどんな釈明をしても「国
家の私物化」は免れようもない。
稚拙な国会戦術を繰り返し、政権
延命を許してきた野党はとどめを
刺す覚悟を持って臨んでもらいた
い。
以前にも紹介した米国のTVドラ
マ「ハウス・オブ・カード」は権
謀術数を駆使する議員が大統領に
のしあがり、政敵を次々倒す姿を
克明に描いている。すでにシーズ
ン5までがDVD化し、ファンと
自称する安倍首相は訪米時、米国
議会で演説に引用した。ところが
、このドラマの主人公は殺人まで
ひた隠す権力者で、一国の首相が
訪問先で称賛するような内容でな
く、スピーチ中から米国の議員の
多くから嘲笑された。それは、最
低限のモラルさえ持たない指導者
に共感を寄せるように響いたから
でもある。
さて週明けの国会である。与党幹
部から解散という言葉まで飛び出
し、大荒れになりそうだ。そんな
中、首相はまったく緊急性のない
中東外遊に出向いた。解散は野党
への牽制球に過ぎないが、政府与
党がいつまでたっても、「モリカ
ケ疑獄」追及を回避できないいら
立ちから発したとも見える。記憶
とモラルをなくしたはずの柳瀬元
秘書官は、今頃になって殊勝に「
誠実に答える」と話している。愛
媛県から文書が出てきて、これ以
上言い逃れできなくなったのは確
かだが、それでも唐突な面会是認
に、何か裏がありそうだと勘繰り
たくなった。案の定、自民党幹部
が「藤原内閣府室長が連れてきた
加計学園関係者と面会しただけで
、愛媛県や今治市の職員もいたと
いう認識はなかった」という想定
問答をほのめかした。この説明を
すれば、これまでの「県や市の職
員と会ったことがない」という答
弁と矛盾しないとしている。
しかし、面会が事実なら、安倍首
相の「新獣医学部創設の意向を初
めて聞いたのは昨年1月」という
答弁と矛盾する。もし、こんな姑
息な釈明で逃げようとするなら、
さらに「首相案件」とあった文書
通りに、計画が進んだ経緯をただ
されるだけで、首相が「虚偽答弁
」で一層追い込まれるのは必至で
ある。いかに与党の議員といえど
も、これ以上の内閣支持率低下を
招き、政権擁護はしにくくなり「
安倍降ろし」の声は高まるのは確
実だ。
もはや、疑惑は回避できなくなっ
たように見えるが、この首相がど
んなにのた打ち回っても、まだ延
命を図るのは間違いない。それは
憲法改定だけを自己目的化して常
軌を逸した思考しかできないから
である。昨日の憲法記念日にそれ
をうかがわせた。改憲団体「日本
会議」系の「公開フォーラム」で
は憲法9条の自衛隊明記発言を自
ら評価し「この1年間で議論は大
いに活性化し、具体化した」とメ
ッセージを寄せた。
明かに、これはフェイク(偽)情
報である。御用新聞を除けば、ど
の世論調査でも、9条の自衛隊明
記は反対が賛成を上回る。この不
信の背景を保守思想に詳しい中島
岳志・東京工業大教授は毎日新聞
朝刊(3日付け)で「戦後保守政
権は憲法を巡る慣習、不文律を尊
重してきた。ところが、安倍政権
はこれらを軽視しがちにみえます
。野党が要求した臨時国会の召集
を先送りにした。『30日以内に招
集する』という歴代政権の不文律
を守らず、衆院解散を強行した」
などの例を挙げ、有権者の不信感
の高まりを分析する。そのうえで
「改憲すれば、自動的に問題が解
決するわけでない。憲法改正は本
来向き合うべき重い課題から(国
民の)目をそらす筋の悪いネタに
なりかねない」と指摘する。
安倍首相のやっていることは「分
断」と「排他」いう言葉がふさわ
しく、中島氏に共感を寄せたくな
る。中島氏が指摘した重い課題は
、真逆の「公正さと協調性」の確
保ではないか。週明け国会では、
その理念実現のため、腐敗摘発こ
そが一歩となる。引き続き野党の
安易な妥協なき追及を求めたい。
【2018・5・4】