不作為が生む無力感 | 平野幸夫のブログ

平野幸夫のブログ

ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。


今年の十大(重大)ニュースが語
られる頃になった。世界的には、
米国大統領選挙でのトランプ氏の
当選が今後の世界に与える影響と
いう点で一番だろう。異論を唱え
る人は少ないだろうが、国内はど
うか。様々候補がある中、今年を
象徴する出来事として、相模原市
の知的障害者施設で、元職員の男
(26)が19人の障害者を殺害し、
27人を負傷させた事件をトップに
挙げたい。事前に危険なシグナル
が多く発せられたのに、悲劇が防
げなかった。公的立場にある人の
不作為と弱い立場の人を邪魔者と
して風潮が、社会の中で不気味に
まん延しているからではないだろ
うか。


この事件は安全弁が働かなくなっ
たこの社会の病理を象徴していな
いか。失敗の責任をとらない政治
の横行とつながっているという気
がしてならない。19日、追送検さ
れた相模原の事件の元職員は「殺
すつもりでやった」と自供してい
る。事件前に精神科に措置入院し
、退院後は継続支援が求められて
いたのに、病院も市も放置したま
まだった。診断では大麻による薬
物中毒も確認されていたのに、治
療が行われず、警察もその後の行
動をチェックしていない。それど
ころか、男が衆議院議長あてに犯
行予告の手紙を出していたのに、
事前に知っていた警察は何もしな
かった。何度事件を未然に防げる
兆候があったことだろう。しかし
、関係先はどこも不作為の連続だ
った。


「障害者はこの世に必要ない」と
広言するような男に何も手を打て
ず、ナチスまがいの優生思想が、
ずっと放置されてきた。当事者が
事前の危うさを察知できなかった
似た場面は、最近のほかの事件で
も何度も見せつけられた。



東京都小金井市で今年5月に起き
た女子大学生ストーカー事件では
、警視庁が事前に相談を受けなが
ら、相談内容が記録もされなかっ
た。女子大生はライブハウス前で
男に刺され、重体になった。意識
を取り戻した女子大生は今月手記
を公表し「警察は反省していない
。また同じことが繰り返される」
と不信感を隠さない。


大阪府警は、巡査と交際し殺され
た女性の遺族に対し、判決が確定
しても2年近く謝罪もしなかった
。警務部長が今ごろ「今まで伺え
ず申し訳ない」と謝っても、遺族
の警察組織に対する許し難い感情
が収まることはないだろう。


弱い立場にあるのを守るのが警察
であり、行政であるべきなのに、
反省もみられず、誰も相当な責任
が問われない。組織の上から下ま
で不作為の責任が問われない一連
の事件をみると、社会の土台が壊
れつつあるという思いを強くする
る。


直近のニュースでは、沖縄普天間
基地移設に関わる県と国の訴訟で
弁論も開かない最高裁。不作為と
いう点では同じだ。裁判を開かな
い理由が不十分でも責任を問われ
れることはない。自ら沖縄県民の
怒りに向き合わないですむ。つく
づく壁の向こうにいる強者に優し
い司法であり、社会だ。


こんな風潮をはびこらせる背景に
はモラルを失った政治がある。不
祥事を起こしても、誰も責任が問
われなかった安倍内閣。年の初め
は、大臣室で賄賂まがいの金を受
け取っても刑事事件に問われなか
った甘利元経財相。失言を繰り返
した山本農林相、機動隊員による
沖縄の人への差別発言を許す鶴保
沖縄北方相ら枚挙にいとまがない
ほどだが、誰一人辞任しなかった
。官公庁の役人らはこんな政治を
まねて、身を処す。こんな楽なこ
とはないはずだ。


多数にあぐらをかき、危機にも安
閑としていられる政治は、多くの
人に「不正が堂々と見過ごされる
」という無力感をもたらす。それ
こそ、為政者の願望かもしれない
。年の瀬に一段と警戒感が募る。


   【2016・12・20】