40代後半、女、独身、フリーランス。

10年(トータル20年)ぶりに

実家で両親と暮らす

母、74歳にして初めての車中泊に挑戦。
「私、夏の草花と山の稜線に落ちる夕日と満天の星空と朝日が見たいの!」
まずは、湿原に咲く夏の草花を存分に見た。
次のオーダーは、山の稜線に落ちる夕日。
ベスポジを確保するため、日の入り予定時刻より1時間前に湿原に戻った。

私は知っている。
母がカバンの中にこっそりオカリナを忍ばせていることを…。
私「吹きたいんやろ?」
母「一度でいいから山に向かって吹いてみたいの!」
目をキラキラさせる母。

周囲を見渡して人がいないことを確認し、おもむろにオカリナを取り出した。

・・・・

大自然の中、ほんっと気持ちよさそうに吹く。
あまり上手とは言えないが、嬉しそうだから好きなだけ吹かせてあげようと思い、私は少しだけその場を離れた。

途中、父に電話する母。
「今、湿原にいます!」
「なんと、オカリナを吹いてるんですよ!」
1から10まで説明していた。

人がいないのをいいことに、まったく止める気配はない。
このシチュエーション、この特別感。
あまり上手ではない母が、途中から上手くなってきたのがおもしろかった。

そろそろ、夕暮れ。
太陽が稜線に沈む瞬間を今か今かと待っていると、一人のおじさんがやってきた。

少しだけ、イヤな予感。

予感は的中した。
ずーっと話しかけてくるおじさん。
ムシするわけにもいかない。
太陽はどんどん落ちてゆく。
それでも、丁寧におじさんの相手をする母。

仕方ない。

母さん、私に任せて!

夕日の写真をバシバシ撮った。

太陽がほとんど山に隠れた頃、おじさんは「では、おじゃましました」と。

これも一期一会のお楽しみ。
「もう!話長いんだから!!」と言いつつも、涼やかな顔で湿原を歩く母。
イラチな私にはなかなか辿り着けない境地だわ。

続く