十年

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十年後の香港を描く5編からなるオムニバス作品。

 

「エキストラ」クォック・ジョン監督

労働節(メーデー)の集会の会場一室。何らかの指示を受けた2人の男が予行演習を繰り返していましたが...。

※中国共産党なら(というより、独裁的な強い力を持つ権力なら)やりかねないと思わせる怖さがあります。"テロリスト"の2人は、命令を拒否しても受け入れても同じ結末を迎えたのかもしれません。もっと"自分の頭でよく考えて"行動していたら、どうなっていたのか...。

 

「冬のセミ」ウォン・フェイパン監督

壊れた建物の壁、街に残された日用品などを用いて"標本"を作製する1組の男女を描きます。

※"失われた物"に目を向けたということなのでしょうか?"標本を作る"という設定は悪くなかったと思うのですが、何をどう標本にするかという点については、もっと工夫をすべきではなかったかと...。

 

「方言」ジェヴォンズ・アウ監督

生粋の香港人で広東語を母語とするタクシー運転手。けれど、中国に返還されて以来、香港でも徐々に北京語が主流になってきていて...。

※言葉を強制される悲劇は、ドーデの「最後の授業」などにも描かれていますが、言葉の問題は、そのままアイデンティティの問題に繋がります。

 

「焼身自殺者」キウィ・チョウ監督

ある日の早朝、英国領事館前で焼身自殺がありました。身元もわからず遺書もなく...。

※返還時に出された"中英連合声明"が守られていないことについて英国に訴える活動家が登場します。でもねぇ、英国は、現在のパレスチナの混乱を生んだ"三枚舌外交"の主人公で、こういう状況に何か役割を果たそうとはしないであろうことを思うと、本作で描かれる酷さがより実感させられます。抗議に焼身自殺という手法を用いたことで、"香港がチベットになる"という危機感が鮮明に感じられました。

 

「地元産の卵」ン・ガーリョン監督

香港最後の養鶏場が閉鎖されます。そこから卵を仕入れていたサムは、「地元産」と表示をして売っていたのですが、見回りに来た少年団に「地元」という言葉が"良くないリスト"に入っていると注意を受け...。

※少年団は、文革当時の紅衛兵を示しているのでしょう。洗脳をするなら子どもから。権力は巧妙です。ラストで、香港人の逞しさが描かれ、そこに光が感じられます。卵を売る店主の"(この状況に)慣れてしまってはいけない"というセリフが印象的です。これは、私たちも噛みしめなければならない言葉だと思います。

 

十年後(2025年)を描くことで、現在の問題がより鮮明に浮かび上がっています。今の香港に漂う危機感を形にした作品ということになるのでしょう。

 

香港返還20周年を迎えた今年の7月1日には、中国の習近平国家主席が自ら香港に乗り込み、香港の民主化運動に今後も強硬な姿勢で応じていくことを宣言しています。本作が予見している通りの未来に向かっているということなのかもしれません。

 

"もう手遅れ"かもしれませんが、少なくとも、こうした映画を製作し、公開でき、賞も取れるというのは、"まだ間に合う"ということなのかもしれません。本当に"手遅れ"にしないためには、"今"対処する必要があるのです。

 

"若々しい"というか、"未熟"というか、映画作品としてはこなれていない感じの作品もありましたし、香港に住んでいない者としては分かり難い部分もありましたが、私たちにとっても無関係ではないお話です。変わっていこうとする日本の状況にどう対抗するのか、ただ飲み込まれて次の戦争への道を歩んでいくのか...。他人事ではありません。

 

 

公式サイト

http://www.tenyears-movie.com/

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