ツレがうつになりまして。 スタンダード・エディション [DVD]/宮崎あおい,堺雅人,吹越満
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細川貂々のコミックエッセイを映画化した作品。原作は未読です。


サラリーマンの夫、通称ツレは、バリバリ仕事をこなしていましたが、このところ、ちょっと調子が悪い様子。ある日、うつ病と診断されます。それを聞いた妻のハルは、ツレの変化に気付かなかった自分を反省する一方、うつ病の原因と思われる仕事を辞めるよう勧めます。そして、それまでは趣味程度としか捉えていなかった漫画の仕事に必死に取り組むようになります。退職し、治療に専念したツレは、徐々に体調を回復させ...。


本作でのうつ病の描き方が軽すぎるという批判も少なくないようですが、しかし、うつ病というのは意外に治る可能性のある病気でもあります。


早い段階に病院に行くことができ、適切な治療を受けることができ、十分に休養を取ることができれば、うつ病の人の3分の1に3~6カ月で症状の改善が見られ、70%~80%の人が1年以内に回復すると言いわれています。(とは言え、75%くらいの人は、1年以上症状が続くということでもありますし、再発する人もそれなりにいるわけですが...)


まぁ、実際には、自分の症状に気付けないことや精神科受診の抵抗感などから、かなり病状が進行してからの受診になりがちだったり、医師の技能の問題などから適切な治療を受けられなかったり、経済的な理由などから十分な休養を取れず、回復途上で焦って仕事を開始してしまったり、という人も少なくないので、長引いてしまったりするのでしょうけれど...。他にも、うつ病ではなく躁うつ病なために経過長引くこともあるようです。躁の症状が比較的穏やかな躁うつ病が、「うつ病」と診断されてしまうことも少なくありませんから。


本作の場合、多分、比較的早期に適切な治療を受けることができたのでしょう。そして、ハルに収入を得る手段があったために、経済的な問題で追い詰められる心配をしなくて済んだ。これは、好条件だったと思います。「ツレがうつになりましたので、仕事ください!!」これが、大きかったのです。


生活ができなくなるから、〇月〇日までに復職しなければならない、何としても頑張らなければならない...という状況に追い込まれたら、治療に専念なんでできませんから。「働かなくても食べられないわけではない」、「働かせなくても、生活ができないわけではない」、このお蔭で、かなり安心感あったはず。


確かに、ハルやその両親のうつ病に対する偏見のなさや、前向きな捉え方は、かなりポジティブで、少々、リアリティに欠けるような感じがしないでもありませんが、うつ病が、左程珍しい病気ではなくなった今、特別なシチュエーションとも言い切れないでしょう。「うつ病は心の風邪」なんて言われるようになって、何年も経っていますし...。


もちろん、現実よりは、軽やかにコミカルに美しく描いている部分が少なくないことも確かでしょう。けれど、現実離れした、稀有な例を描いているとまでは言えないことも間違いありません。


というわけで、エンターテイメントとして受け入れられるようにあえて軽くコミカルに描いた部分は確かにあったでしょうけれど、大きく、現実から外れているとも思えませんでした。


少なくともうつ病について、うつ病やうつ病患者との付き合い方についての理解を進めやすい入門書の役割は十分に果たしているのではないかと思います。


そして、ツレとハルの関係が素敵。やはり、この2人の関係があったからこその順調な回復だったのでしょう。やはり、人間にとって、人との関わりが大切なのだと、本当に人の心を癒すのは、人による支えなのだと実感させられます。


堺雅人が見事。半分笑ったような表情で、さまざまな感情や内面を表現してしまう辺り、さすがです。


少々、癖がなさ過ぎるというか、こじんまりと無難にまとまっていて、全体に優等生過ぎる感じは否めませんが、それでも、楽しみながら、夫婦愛をシミジミ味わえる作品でした。一見の価値ありだと思います。