イギリス初の女性の首相となり、保守的で強硬な政治姿勢から"鉄の女"と呼ばれたマーガレット・サッチャー。


雑貨商の娘、マーガレットは、オックスフォード大学を卒業。その後、政治家をめざしますが、初めての下院議員選挙で落選してしまいます。そんな時期、彼女の前に事業家、デニスが現れます。2人は間もなく結婚。マーガレットは、双子の息子と娘にも恵まれ、政治家としても力をつけていき...。


労働者階級の出身で女で。階級社会のイギリスで権力の座に就くには大きな2つのハンディを持っていたマーガレット・サッチャー。けれど、後に、イギリス史の中でも、ひときわ、印象的な首相となります。


強いリーダーシップを発揮し、様々な施策を強引に推し進めたサッチャーへの毀誉褒貶は激しいものとなっています。景気が停滞していたイギリスの経済を立て直し、フォークランド紛争に勝利したりという"功績"がある一方、失業者の増大を招いたり、医療制度を機能不全に陥らせたり、金持ち優遇政策を打ち出したりといったことで批判も受けています。


欧州統合に対し、強い拒否感を露わにする場面もありましたが、通貨統合によりギリシャの財政破たんの影響を受けている欧州各国の様子を見ると、これもサッチャリズムの"功"の部分かもしれません。


史上初の女性首相として、また、大きくイギリス社会を変えた人物として歴史にその名を刻むであろうサッチャーですが、本作の中では、その政治的実績については、サラッと表面的になぞるだけです。もっとも、存命の実在の権力者を描くのですから、功罪をバランスよく描くためには、あまり、実績について突っ込まない方が良いということなのかもしれません。けれど、本作の内容を理解するには、予備知識を仕込んで上で観る方が良いかもしれません。


本作では、政治家としてのサッチャーというよりは、苦難を乗り越えて栄光を掴んだ人物の輝いていた時期のその後に重点を置いて描いています。やや、"その後"に重きを置きすぎたようなバランスの悪さが感じられますが、力を手に入れることの難しさよりも、権力の場から去ることの難しさを描いた点に新鮮さを感じました。


デニスが既に亡くなってしまったことさえ分からなくなるような状態の中にも、時に、かつて首相の座にいたことの証が垣間見られます。彼女自身の中で、彼女の業績が霞んでいくように、歴史の中で、サッチャリズムは消えていくのか、それでも、残っていくものがあるのか...。


サッチャーの引退後、保守党から政権を奪取した労働党のブレア首相は、サッチャリズムの弊害除去に取り組むことになります。サッチャーが廃止した地方公共団体や公企業を復活させ、民営化によるサービス低下へ対処し、医療予算を大幅に増額し、サッチャー政権のもとで機能不全に陥ったNHS(国民医療サービス)の立て直しをはかりました。


歴史の中で、サッチャーへの評価が固まるには、まだ時を経なければならないのでしょう。少なくとも、"初めての女性首相"として英国史に名を残すことになるのでしょうけれど...。


本作の魅力は何と言っても、メリル・ストリープの名演にあります。決して、サッチャー首相のやり方に共感できるわけではないのですが、本作を観ていると、マーガレット・サッチャーに魅力を感じてしまったりします。一瞬、ドキュメンタリーかと思ってしまうほどそっくりな姿を見せているというだけでなく、本人以上に魅力的な人物を出現させている点にメリル・ストリープの巧さを実感させられます。


そこに頼り過ぎた作りになっている感は否めませんが、それだけでも十分に鑑賞に堪える作品となっています。一見の価値ありだと思います。



公式サイト

http://ironlady.gaga.ne.jp/



マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙@ぴあ映画生活