東京の大手家電メーカーに勤める筒井肇は、仕事一筋に生きてきた50歳を目前にしたサラリーマン。仕事に追われる忙しい毎日でしたが、母の急病で帰省したことをきっかけに、自分の生き方に疑問を感じるようになり、子どもの頃の夢だった電車の運転士になるべく、故郷の"一畑鉄道"の採用試験を受けることにして...。


長年、会社に尽くしてきたベテランのサラリーマンも容赦なくリストラされる。そんな時代ですから、好むと好まざるとに拘わらず、40代、50代で、それまで営々として築いてきたキャリアを捨てざるを得ない状況に追い込まれている人は少なくありません。


肇は、決して、方向転換を強制されたわけではありませんが、厳しい社会情勢、人生の儚さを実感させられる体験、自分を取り巻く状況の変化などから、新しいチャレンジを決意することになります。そして、そのチャレンジが、実に若々しい。というより、子どもっぽいと言って良いものでしょう。「電車の運転手さんになりたい」ですから。けれど、それは、夢から離れた人生の行き着く先を実感してしまった大人だからこそ、切実に夢を追いたくなったのでしょう。


50歳を目前にして舵を大きく切る。それは、自分自身の決意も大変でしょうけれど、周囲にそれを納得させることも大変...なのではないかと想像されるわけですが、本作では、かなりアッサリとトントンと話が進んで行きます。そのあまりの引っ掛かりのなさに、少々、拍子抜けしてしまいましたが、夢を追うことが大人の分別を知らないことの証とされるような今の時代だからこそ、こんな綺麗な御伽噺が嬉しいのかもしれません。


そして、そんな肇の周囲にいるのは、良き理解者であり、店を始めればいきなり成功させてしまう見事な経営手腕を持つ妻、両親や祖母に対して優しい気持ちを持ち、病気の祖母に精一杯尽くす娘、息子を気遣い、闘病生活においても息子一家に大きな負担をかけることのない母、50歳目前という肇を採用する決断をする鉄道会社と彼を温かく向かいいれる従業員たち。


もうちょっと葛藤とか、軋轢とか、ドロドロしたものがあってもよかったし、そういうものが多少はあった方が、相対的に彼の夢へ向かう姿が輝いたような気もしますが、美しい田舎の風景の中を走る年代物の車両を見ていると、そんなこともどうでもよく思えてきます。


世知辛いこの世の中の一服の清涼剤という感じでしょうか。疲れた現代人を癒してくれる作品と言ってもいいのかもしれません。私としては、もう少しスパイスの効いた作品の方が好みではありますが...。


もう、随分、前のことになりますが、一畑鉄道に乗ったことがあります。突然、駅でも何でもないところで止まるので、何事かと思ったら、電車の前方に線路を横断しているオジイサンの姿がありました。その後、通り過ぎる電車に向かって頭を下げるオジイサン。それで、電車は数分遅れたのでしょうけれど、そんなっことよりも、ほのぼのとした経験でした。当たり前にひょいっと歩いて渡れるようなところに線路があったことも印象的に残っています。そういう意味でも懐かしい作品でした。



RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語@ぴあ映画生活