エレジー デラックス版 [DVD]
¥4,650
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TVのレギュラー番組も持つ著名な大学教授デヴィッド。社会的には成功している彼ですが、家庭はとうの昔に崩壊。一人息子とも良い関係を築けていません。女性には愛情よりも肉体を求めていたデヴィッドの前に、ある日、美しい学生、コンスエラが現れます。30歳も年下の彼女に目を奪われたデヴィッドは、彼女に近付き、ベッドを共にするようになります。最初は、一夜限りの関係のつもりだったデヴィッドですが、徐々に、コンスエラに惹かれるようになり...。


デヴィッドは言います。芸術品は所有できないと。所有しているつもりでも、芸術品は所有者よりも後の世界まで生き続けるもの。"所有者"とはいえ、一時的に管理しているに過ぎないのだと。


けれど、芸術的に美しいといっても、コンスエラはいずれは衰えていくことを運命付けられている人間。年齢でいえば、デヴィッドにとって、自分が一生を終えるまでの間は美しさを保つはずの存在だったのかもしれませんが、必ずしも年齢の順番に通りにはならないのが運命の皮肉。


コンスエラとの再会からラストへ至る過程は、デヴィッドが、コンスエラは芸術品ではなく人間なのだという事実を受け入れる過程でもあったのかもしれません。そして、そこにあるのは、デヴィッドの人間としての成長。60歳も過ぎて、社会的にもそれなりの地位を得ても、まるで、男子高校生か大学生のような会話をジョージと交わしていたデヴィッドが、きちんと一人の女性と向き合えるようになった...。ジョージは、デヴィッドに、「外見に惑わされ内面が見えない」と言いますが、コンスエラが外見の美しさの(一部)を失うことで、コンスエラの内面を見ることができたのでしょうか。


年老いて、親友を失い、一人寝の寂しさを紛らわしてくれる女友達を失ったデヴィッドの喪失感と美しい肉体の大切な部分を失うことになったコンスエラの哀しみ。それぞれの大きな喪失感が胸に沁みてきます。


デヴィッドは、コンスエラについて、「美しく、彼女自身も自分の美しさを知っている」と評していましたが、コンスエラは、デヴィッドが、その美しさゆえに自分に惹かれていることも理解していたことでしょう。けれど、デヴィッドの元を訪ねてきます。それは、コンスエラにとって、ある種の賭けだったのかもしれません。デヴィッドが自分の外見だけを欲するのか、内面を求めるのか。それは、同時に、デヴィッドにとって、人間としての成熟のために乗り越えなければならないもの。デヴィッドがそれを乗り越えようとしたから、息子との和解も成立したのかもしれません。


デヴィッドの老いとコンスエラの若さ。コンスエラの病により、崩れる「老いと若さ」のバランス。それぞれの喪失と再生。


基本的には、わりとオーソドックスな感じもするラブロマンスの男性側の年齢を思い切って上げただけ...という気がしないでもありませんが、美しく重厚な雰囲気の映像と演技陣の好演で見応えのある作品に仕上がっていたと思います。


それにしても、コンスエラを演じたペネロペ・クルスの完璧としか言いようのないような美しさ。その見事な姿をたっぷりと鑑賞できるということだけでも一見の価値のある作品といえるでしょう。



エレジー@映画生活