小学校の卒業と同時に離れ離れになった遠野貴樹と篠原明里。中学生になった貴樹は、ある日、明里に会いに行きますが、その日は、大雪となり、電車は大幅に遅れ...。貴樹と明里の再会を描いた『桜花抄』。その後の貴樹を別の人物の視点から描く『コスモナウト』。そして、大人になった貴樹と明里の人生を振り返る表題作の『秒速5センチメートル』。三本の連作アニメーションです。
恐らく、生身の人間が演じていたら、もっと、ドロドロしたものとなったことでしょう。それを、アニメーションで表現することで、とても美しいものに昇華していました。誰の心の中にでもあるような幼い日の思い出。それは、時として、大人になった自分にとって、苦いものであったり、痛いものであったりすることでしょう。けれど、本作の中で描かれるものは、あくまで、美しく、今の自分に力を与えるような思い出となっています。
本当の想い出が、こんなに綺麗で純粋であるはずがない。けれども、人間らしい汚さを取り除き浄化した中にこそ見ることができる真実もあるのではないか。そういうものを本作は見せてくれているように思えました。
人物の動きも少なく、登場人物のモノローグで語られる部分も多く、動画と言うより、紙芝居を観ているような感じもありましたが、その映像の美しさ、特に、空や海の色彩の見事さは印象的でした。
そして、三作目の『秒速5センチメートル』のラストに向かう数分間(多分、5分くらい?)。音楽がリードする力がやや勝った感がなきにしも非ずですが、音楽と映像が観る者の感情を揺さぶります。この数分間のための1時間だったのだろうとさえ思えてきます。(まぁ、ラストに至るまでの部分に、もう少し、力が欲しかった気もしないではないのですが...。)
最後の5分間は必見。けれど、その5分間は、それまでの55分を見て、初めて味わえる5分間。
過去の成就しなかった恋、成長とともに、過去に置き忘れてきたもの、大人になるに連れて、手放したもの、捨ててきたもの...。そうした過去は、決して、消すべきものではなく、起こらなければ良かったものでもなく、そうした諸々があってこそ、今の自分がいる。過去の何もかもによって、今の自分が作られ、今の自分に力を与えてくれている...はず。
今を生きる人たちへの応援歌のような美しい作品でした。
公式HP
秒速5センチメートル@映画生活
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