ブロークバック・マウンテン

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1963年、定職に就かずにいるジャックとイニスは、ワイオミング州ブロークバックマウンテンで羊の群れを守る仕事を得て、ひと夏をともに過ごします。大自然の中、助け合って働くうちに、深い絆が築かれ、男同士の恋愛へと発展していきます。山での仕事を終え、別々の生活を始めた二人は、それぞれ結婚し、子どもを持ちます。けれど、4年後に再会。それ以降、保守的な時代、閉鎖的な環境のなかで、20年間もの間、秘かに愛をはぐくみますが...。


「同性愛をテーマにしている」ということで、各賞の候補としてノミネートしたアカデミー賞委員会には、猛烈な講義があったのだとか。出演しているミシェル・ウィリアムズは、キリスト教系の学校である出身高校から除名処分を受けているそうだし...。






[以下、ネタバレあり]







まだまだ、同性愛に対する偏見は強いのでしょう。まして、1960年代において、二人の間にどれ程の障害があったのか。イニスが、自分の幼い頃に目にしたゲイの人に対する仕打ちについて回想する場面が出てきますが、その経験のために、イニスは、ジャックとの関係が他人に知られることを恐れます。


山での仕事に出ている間に結ばれるイニスとジャック。全体に、ジャックに較べ、イニスの態度は素っ気ない感じなのですが、その態度の裏には熱い想いが隠されています。ブロークバック・マウンテンでの仕事を終え、町へ戻ったジャックとイニスが別れ、イニスが嗚咽する場面、何よりも大切に想う相手と不本意な形で別れることになってしまった哀しさが胸に迫ってきます。


そして、町へ戻った二人は、それぞれ女性と結婚します。イニスは、ジャックと出会う前に付き合っていて結婚する予定だった女性と。ジャックは、町へ戻ってから出会った女性と。けれど、イニスと妻の関係は次第に悪化し、イニスの妻には新しい恋人ができ、離婚します。ジャックは、元々、妻の実家からは疎まれていた存在であり、ジャックの妻も、夫の存在をさほど必要としないタイプの女性に見えます。家庭の中に居場所を失っていくイニスとジャック。そのことが、さらに、二人の間を強く結びつけていきます。


この二人が男同士でなければ、特に障害のない恋愛だったのでしょう。けれど、男同士で、この二人が生活していた当時の社会の価値観を考えれば、世間に知られれば命さえ奪われるかも知れないという大きなリスクを伴う行為なわけです。もっと頻繁にイニスに会いたいジャックと、二人の関係の発覚を恐れるイニス。相手への想いを抱えながらもすれ違う二人の様子に当時の社会の状況が二人の関係に落とす影の大きさを感じさせられます。それを、周囲にひた隠しにして20年!全体には、トーンを抑えた静かな描写が続くのですが、その静けさの中に、20年という年月の重さが感じられます。


細部まで丁寧な描写がされ、その繊細さと二人の関係の切なさに心を打たれました。そして、二人が自由にお互いの想いを表現できた場所である山の風景の描写が美しく見事でした。


ジャックは、事故で亡くなります(いや、本当は、ゲイであるために殺されたのか?)が、イニスは、ジャックの死を思い浮かべながら、幼い頃に見たリンチされるゲイの男性の姿を回想します。イニスの行動を抑えていた力がいかに強いものであったかが分かりますし、それを超えたジャックへの想いの強さを実感させられます。


ジャックを不慮の事故で喪ったイニスがジャックの両親を訪ねる場面。イニスは、ジャックの部屋の洋服ダンスの中に、自分がブロークバック・マウンテンに置き忘れてきたはずのチェックのシャツとジャックのデニムのシャツが重ねて掛けられているのを見つけます。それを見つけたときのイニスの気持ち、それを持ち帰ろうとするイニスに紙袋を渡すジャックの母親、最初はジャックの遺志通りブロークバック・マウンテンでの散骨を許したかに見えたのに最後には「家族の墓に納める」ことを宣言する父親、自分の洋服ダンスにブロークバック・マウンテンの写真を貼り、その近くにかけ、時折、愛しそうに抱きしめるイニス...。


ジャックをイニスに渡すことを拒む父の姿は、イニスにゲイであるためにリンチされ殺された男性の死体を見せたイニスの父の姿に通じるものがあります。そして、母のイニスに紙袋を渡すという行為は、二人の関係を許そう(シャツを持ち帰りやすいようにしてあげよう)という気持ちとそれを紙袋に入れさせよう(世間に知ら隠そう)という気持ちの表れとも受け取れます。


ジャックの死は、取り返しのつかない悲しい出来事だったかも知れません。けれど、ジャックの存在は重荷に感じることもあったイニスにとって、ジャックが亡くなることで、初めて、その存在が重荷ではなく純粋に愛おしい存在として昇華されたのではないかとも思います。イニスは、ジャックのシャツと自分シャツを抱きしめ「Jack, I swear...」と呟きます。「永遠に一緒だ...」と訳されていましたが、ジャックの存在を忘れずに生きていくというジャックへの「誓い」の言葉であったろうと思います。


生命を賭けなければならないほどの大きな障害のある恋愛。そして、そのために、かえって純粋に燃え上がる二人の想い。「男性同士」ということを外して見れば、恋愛ものの王道という側面を持つ作品とも思えますが、それぞれの恋心が繊細に丁寧に描写され、味わい深い作品になっていました。後々まで、心に残りそうな一本です。



公式HP

http://www.brokebackmountain.com



ブロークバック・マウンテン@映画生活