質問を頂きました。

(同じような疑問をお持ちの方のためにも、このブログに頂いた質問は公開させて頂いています。)

 

 

最近の人工股関節手術では、入院期間が非常に短くなっているのが大変気になりますが、先生はどのように考えていますでしょうか?
差支えない範囲でお答え頂きたく何卒よろしくお願い申し上げます。

 

 

 

質問ありがとうございます。

 

確かに、全国的に人工股関節手術の入院日数は短くなっています。

 

色々な病院のホームページを見ると、

「〇日で退院できます。」

とか書いてありますね。

 

患者さん方にとって、非常に望ましいと感じられると思います。

 

既に手術を終え、退院した方の中には、

「すごく順調で、すぐに退院できました。」

という方もいれば、

「まだ入院しておきたかったのに、退院を促されました。」

という方もおられるはずです。

 

 

人工股関節手術の入院期間が短くなっている理由を、いくつか挙げていきます。

 

 

①  手術自体が進歩した。

私が研修医の頃は、人工股関節手術の入院期間は2~3か月が普通でした。

今でこそ、手術翌日から全荷重可が普通ですが、当時は1か月近く荷重不可が一般的でした。

(術後1か月間、下肢をけん引している病院もありました。)

手術時間も長く、出血量も多く、あの頃から比べると大きく進歩しましたね。

(手術室から出てきた時、患者さんはみんな顔面蒼白で、きつそうだったのを覚えています。)

 

②  創の縫合をしなくなった。

縫合ではなく、テープで固定する病院も多くなったと思います。

(縫合すると抜糸までは退院させられなくなるので。)

私は縫合するのですが、理由は、

昔、佐賀大学にいた時に患者さん全員テープ固定にした時期があったのですが、何人か創が開くことがあったからです・・・。

(病棟での縫合はつらかったです。)

 

③  経営の問題。

現在では、これが1番大きな原因と思います。

簡単に言うと、早く退院させればさせるほど黒字になる(単価が高くなる)からです。

(国の方針、国からの誘導とも言えます。)

DPCという診療報酬方式を取っている病院は特に顕著になります。

そして、大学病院などの大きな病院は、ほとんどDPCを採用しています。

「期間II」に設定されている日数より短く退院させると、黒字が大きくなるので、経営陣はそれを要求してきます。

人工関節の手術は収益が高いので、普通にしていても黒字になることが多いのですが、

DPC病院の経営陣は、「期間IIで退院させた場合と比べて赤字だ」と責めてくることが多いです。

(つまり「もっと早く退院させなさい。」と・・・。)

なので、経営会議に出される資料では、患者も多くて黒字を出しているはずの整形外科が赤文字だらけで、全然患者がいない科が黒字のように思える資料が出されます。

(佐賀中部病院の時がそうでした。なので、戦っていました・・。)

 

④「すぐ退院できる」と宣伝した方が患者さんが集まる。

ちなみに「退院できる」というのは、「自宅に退院できる」ではなく「他の病院に転院する」も含みます。

ですので、「術後の在院日数」が短いからと言って、「早く治っている」という訳ではないです。

 

 

私個人的な意見ですが、あまりにも早い退院はあまり良くないと思っています。

 

早い退院を希望される患者さんを引き止めることはありませんが、

急いでいない患者さんは3週間前後をお勧めしています。

 

理由は

 

①  一般的に術後3週経過したら脱臼率は1/3になると報告されていることが多い。

私の脱臼率が1%前後としたら、退院時は0.3%となるので安心できます。

 

②  カップの移動やステムの沈み込み、術後骨折は術後2週前後のレントゲンで分かることが多い。

術後に1回しかレントゲンを撮らない、もしくは全く撮らない、というのは不安です。

 

③  人工関節の表面加工が自分の骨となじむ(bone ingrouthなどと言います。)のが4週前後。

しっかりした固定性ができてから退院してもらった方が安心します。

 

などです。

 

当院がDPCではなく、包括ケア病棟もあるので言えることですが・・・。

 

 

 

以上です。

 

少しでも参考になれば幸いです。