かりん9月号の歌 | 日置研究室 HIOKI’S OFFICE

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作家の日置俊次(ひおきしゅんじ)が、小説や短歌について語ります。
粒あんが好きですが、こしあんも好きです。

 

  かりん9月号の歌 富士の歌

 

 かりん9月号の歌をご紹介します。

 まず、私の歌から引用します。

 

 

     富士           日置俊次

 

本当?と亡ききみが聞く濡れた眼の夜を桜のやうに舞ふ雪 

はめ殺しの広き窓なり西武線に朝のましろき富士を見てゐる

きみはパンでぼくもパンゆゑ香りだけ楽しむお互ひを食べられぬから

排水口にアルミ丸めて入れてゐる五彩の虹をつめるつもりで

なみだのやうに雲の鱗が散る千年もう邂逅の日など忘れて

泡として生(あ)れたるわれが泡よりもゆたかに日曜の朝寝坊する

雲間より光がななめにわれを呑む すきとほる光の繊毛のなか

残雪の消えゆく五月の富士とゐる八月の部屋に写真仰ぎて

 

 歳月の流れをとらえた作品で、基本的に早春から富士の雪が消えてゆくまでを中心的なイメージとして核心においています。全体としては、雪、雲、泡というはかないものをテーマとしています。特に死んでしまった愛犬ルメのことを考えています。

 

 泡として生(あ)れたるわれが泡よりもゆたかに日曜の朝寝坊する

 

 特にこの歌は、今年のかりん全国大会に提出した歌ですが、毎年そうであるように、今年も投票ではゼロ票に近かったと思います。私の歌はいつもそうですが、理解されることはほとんどありません。それでいいと思っています。ほかの人とまったく感覚が違いますので、わかってほしいなどという大それた願いは持っておりません。

 ただし私としては、これはとても気に入っている歌です。いい歌だと思います。朝寝坊の喜びというものは、学校に行ったり、勤めに行ったりしないとわからないものだと思います。私の歌も泡のような存在ですが、歌ははかない泡よりも豊かに私を励ましてくれます。ありがたいと思っています。

 こういう時いつも思い出すのが、岩田正先生で、これまで大会のあるたびに、ゼロ点の私の歌をとてもほめてくださいました。そして、いつもゼロ点であることにとても憤慨されておられたので、それで私は、ある意味で自分の歌に自信をもっているのです。私のまわりには見る目のない人がとても多いようです。

 つまり私の歌は、よほど選ばれた人にしかわからないほどの歌だということになります。これは勲章ですね。

 いつも岩田正先生が喜んでくださるということは、私の歌には何か一途で豊かなものがあるということだと思います。

 一連の歌の「富士」には不死のイメージがあります。泡は、不死に対するはかない泡沫ということです。また、この「泡として」の歌をつくりだす過程では、背後に、私の内部で、様々な泡をめぐる思索がありました。宮沢賢治の「やまなし」なども頭にありました。もちろん岩田先生の次の歌も意識されています。

 

鴨うかべさくらをうかべ麻生川濁れる泡も一途なりけり  『泡も一途』(2005)

 

 

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 次に黄郁婷さんの歌を引用します。

 

 

  居眠り       黄郁婷(ファンユーティン)

 

二杯目のコーヒーも頼りにはならず居眠りユーユー、疲れた社畜

仕事中うつらうつらとするわれにサブマネージャーの声優しく刺さる

頬染めて言い訳さがすそのあいだ時間は止まる言葉は詰まる

体調が悪いのかと聞くサブマネの言葉はやさしさか皮肉か知らず

鉄のようにまぶたが重いオフィスの海にただようユーユーロボット

体調は問題ありませんという声がかぼそすぎると自分で思う

 

 黄さんにお話を聞くと、このところ、いつも目がはっきり覚めず、いつもまどろんでいるようで、手足にも力が入らないような状態だそうです。お仕事中に眠ってしまい、上司に注意されて赤面したそうです。その冷たい視線にのどが引きつって声が出なかったということです。目覚めに効果があるという赤や青のパワーストーンを買ってきて、手首に巻いたそうですが、効果はありませんでした。コーヒーもいくらのんでも駄目だそうです。

 医者に行くのもいいとは思いますが、この種の症状には、あまり役に立たないのではという気もします。たぶん、あいまいなことしか言わないと思います。

 以前から、黄さんが冷房に弱いというお話も聞いていて、「強い冷房で冷えているのではないですか、冷えに気を付け、いつも体を温めた方がいいと思います」という、アドバイスをしています。

 オフィスでは大きなひざ掛けをして、家ではお風呂で温かめの湯船につかり、温かいものを飲み、体温をあげること、コーヒーはやめて温めたミルクやお茶などがいいということ、それから夜は寝る前には食事をせず、水分を取って、暗くしてゆっくり眠るという基本的なことをアドバイスしました。そうしたらかなり改善があったそうです。

 

 ドイツの溝口シュテルツ真帆さんは、多忙のため、今月は休詠です。たまには休むことも大切ですね。

 なお、そういいながら、私は何十年も、一度も欠詠はありません。ちょっと真面目過ぎるのかもしれませんが、だから休むことも大切だとはっきり言えるのです。

 

 

天天快樂、萬事如意

みなさまにすばらしい幸運や喜びがやってきますように。

   いつもブログを訪れてくださり、ありがとうございます。