精神科の治療病棟で働いていた時の話。
60代前半の男性患者さんがいました。
パーキンソン病を患っていて、手足の拘縮が著しく
ベッドで寝たきりで過ごされていました。
言葉は、話せるし理解も出来るのですが
機能的なものか、はっきりと聞き取れることが出来ませんでした。
でも、ゆっくりと聞くと、なんとなく理解できました。
認知症状はなく、看護師の名前を全て覚えているような患者さんでした。
冗談を言ったら笑ってくれたりとコミュニケーションもはっきりとれます。
そんなある日の深夜。
巡回で彼の部屋へ入った時、彼は目覚めていました。
「眠れませんか?」と私
しかし、彼はそんな私の言葉は聞こえないようで、ジッと何かを凝視しています。
その視線は明らかに私ではなく私の頭上のその先を見ているような・・・
そして、急に怖い顔になり、睨みつけるように
「来るな!あっちへ行け!」と興奮したように怒鳴りました。
いつものわかりにくい発音ではなく、はっきりとした力強い声
ビックリする私
そして、彼は拘縮した腕を必死に上げようとすると私の方を指さし
「いる、そこにいる」と言い出しました。
その言葉を聞いた時、私は今までに感じた事のない恐怖を感じ
「大丈夫ですよ、誰もいませんよ・・・」と言いながら
後ずさるようにゆっくりと部屋を出ていきました。
最後まで自分の後ろを振り向くことができないまま・・・
部屋を出て、急いで詰所へ戻り、同僚に話すと
「ああ、あの人見えるらしいよ。奥さんが言ってたみたい」
と、同僚
ますます怖くなり、次の巡回は一緒に行ってもらうようにしました。
それ以来、その部屋の天井付近を見ることができなくなりました。
もし、あの時振り向いたら何かが見えたのだろうか・・・
その病棟は1年後取り壊されましたが、あの時の恐怖は覚えています。