小児の臓器移植 なお海外頼み
-富士の吉岡奈緒ちゃん、28日渡米-
家族の承諾があれば十五歳未満の脳死による臓器提供が可能となった改正臓器移植法が全面施行されて十七日で、五年を迎えた。国内でも子どもの脳死による心臓移植に道が開けたが、実現したのはわずか六例。提供数が少ないため、巨額の費用がかかる海外での移植に頼らざるを得ず、移植を必要とする子どもや家族には、極めて厳しい状況が続いている。
静岡県内では、富士市の吉岡奈緒ちゃん(6つ)が米国での心臓移植手術を待っている。二十八日の渡米まで一週間ほど。募金総額は目標額の二億七千万円まであと七百万円弱(十六日現在)に迫っている。
奈緒ちゃんは昨年六月、ウイルス感染が原因で劇症型心筋炎を発症。心臓の筋肉がうまく働かなくなる拡張型心筋症となり、移植が必要と診断された。
国内での移植なら健康保険が適用されるが、心臓移植を待つ十五歳未満が二十二人に対し、提供は年間一、二件。「国内での移植は二~三年待ち」と聞き、父親の淳さん(54)は海外での移植を決断。保険のきかない手術費、医療用ジェット機の代金など費用がかさむため、今年三月、友人らの助けを借りて募金を始めた。
進まない国内での子どもへの臓器提供。子どもの死亡例が少ないこともあるが、淳さんは「体が温かいままの脳死は親として死を受け入れにくいと思う」と親の気持ちを推し量る。
今年一月、心臓移植待機中に脳死となった東海地方の女児が、臓器提供者となった。奈緒ちゃんは今、この女児が当時は未承認で使えなかった小児用の補助人工心臓をつけ、東大病院で渡航を待つ。淳さんは「承認を訴えてくれたご両親のおかげ。いろんな人が応援してくれているからこそ、何とか早く移植で元気にさせたい」と話す。
海外での療を目指しながら今年一月に二歳で亡くなった名古屋市の女児の支援団体からも、五月に二千八百万円の支援を受けた。これまでに街頭募金は計五百回も実施。移植を待つ子どもたちが大勢の善意で希望をつなぐ現実は、五年たっても変わっていない。
(中崎裕)
中日新聞より
-国が啓発に力入れて-
海外渡航を支援するNPO法人「日本移植支援協会」の高橋和子理事長の話 臓器移植法改正以降は一時的に海外渡航の相談が少なくなったが、この一年は法改正前と同じくらいに増えている。当初は国内での移植への期待があったのだろう。海外移植の費用は二億数千万円と高額化しており、国内での移植が進むよう、国は脳死移植への理解を広める啓発などに力を注いでほしい。
<小児の臓器移植>
2008年の国際移植学会で海外での移植を減らす努力を求めるイスタンブール宣言が出され、日本では10年の改正臓器移植法の施行で脳死下での15歳未満の臓器提供が可能になった。ただ、大人を含め年間8000人程度が臓器提供する米国と比べ、日本は昨年77件(心停止移植含む)と広がっていない。
特に子どもの心臓などは大人からの移植は困難なため、海外頼みの状況が続いている。