サンタの贈り物 5 (最終話) | 気紛れな心の声

気紛れな心の声

気がついたこと 不意に感じたこと とりあえず残してみようって^^…最近は小説化しているけれど、私の書き方が上手くなるように感想くださいね

少年は、サンタに言われて記憶を辿った。

12月20日。少年の父は、年末年始の休みを発表した。代替わりして以来初めての事だった。ただ、何人かの機械管理者は出てこなければいけなかったので全員というわけではなかったが。会社の休みは28日~翌月9日までだった。この間に、旅行を希望するものは社が利用している旅行会社が手配してくれる事にまでなっていた。

少年も久しぶりの家族旅行に胸を躍らせた。

だが、23日、機械トラブルの為の修理が30日になることが発覚。

家族旅行は中止になった。

だから、24日の朝、父親と喧嘩をした。

サンタは、少年の頭をクシャクシャと掻き撫でると、24日の朝へと移動をした。

そこでは、少年と父が口論をしていた。

「仕事なんだ…」

「どうして…」

「機械が昨日壊れた…それを直さない事には、社員の休みが保障できないんだ」

「…そんなのわかんないよ!」

「社員の多くが、28日の休みを返上して30日までの分の処理をしてくれる、誰もが一生懸命しているんだ」

「だったら…お父さんが行かなくても」

「そうだね、いかなくてもうまくできるかもしれない」

「でしょう…旅行にいけるじゃない」

「でも、いかないかもしれない」

「………」

「見てごらん…」

父親は、ツリーの周りに置かれた山積みのプレゼントを指差した。大きい物から小さな物まである。それらの多くは、社員から送られたものだ。

「だから何?」

「あれは、サンタからではなく、社員が用意してくれたものなんだ」

「知っているよ…サンタなんていないから」

「それは違うよ…サンタはいるんだ」

「嘘だ…」

「本当さ…」

「だったら」

少年は目に一杯の涙をためて、拳を強く握って父親の目をまっすぐに見た。

「何故うちにはサンタは来ないの?」

「着ているさ…」

「来ないよ…」

「そんな事は無い…サンタは毎年、着ているよ」

「…嘘だ!」

「どうして?」

「だって僕は見たことが無い」

「……見たいのかい?」

「うん…」

「だったら、それを願ってみたらどうだろう…」

「えっ?」

「サンタが来てくれる…ここに着く事を願うんだ」

「………」

「その願いが本物ならば、きっと来てくれるよ」

「もういい!」

少年は、そういって部屋を飛び出した。

横に女性とはいえサンタがいる今となってはどうしようもなく恥ずかしい事が展開されていた。

「気にするな…昨日のお前だ…」

「でも…」

「見せたいものがあるからここに居る…よく見ていろ」

「うん」

少年は、サンタに促されて両親を見た。

「あなた」

「大丈夫だ…アイツもわかる日が来る」

「ええ」

「人は先頭に立って動くものを見ない限りついてこない…何もしない者は、力を失えば終りだという事に」

「…でも、難しいわね」

「大丈夫だ…」

「そう?」

「ああ…それよりも、サンタだな」

「それくらいなら、あたしが…」

父は、母に苦笑して見せた。

「サンタはいるんだよ…」

「えっ?」

「君も知っているはずだよ」

「………」

「サンタは誰の心の中にもいる…アイツが君に宿った夜の事を思い出してごらん…」

「あっ…」

「あの朝、君は子供ができた気がする…妖精がそう教えてくれたといった」

「ええ、あれが」

「いや、あれはサンタではないよ…でも、それがサンタに繋がる力なんだ」

「……素敵な話?」

「信じてみないか…?」

「子供じゃないし…」

「だったら…」

父親は、サンタを指差した。

少年は慌ててサンタの陰に隠れた。

「あたしじゃないよ」

「えっ…」

「今朝のあたしさ」

「あっ…」

少年の目の前を通り過ぎて、もう一人のサンタが両親の前に下りった。

「久しぶりだね、坊や」

「あなたは変らないままだ」

「サンタは年をとらないものさ…」

「初老の老人のイメージが…」

「よぼよぼのば-さんよりも、ピチピチのミニスカートだろ?」

父は、クスっと笑い、母を抱き寄せた。驚きに硬直している母を。

「これって…」

「見ての通り…」

「安物のショーガール?」

「……この町にそんな店は無いだろ」

「よね、いるんだ…」

「信じてないだろう?」

サンタは、呆れ顔で言う。

「見たから大分信じているかも…」

「それなら…良しとするかな」

サンタは、クスっと笑いかける。何処か照れているようにも見える。

「あんたが本気の願いをするのも久しぶりだな」

「・・・そうだな」

「聴こうか、願いを」

「ねぇ、あなた…?」

「真実の願いがフェアリー・ベルを生み出す…フェアリー・ベルは、サンタクロースの使いだが、一度生み出される成長をしていくんだ…そして、人くらいの大きさに成るとサンタになるんだ…このサンタは、曾ばーちゃんが生み出したフェアリー・ベルだ…」

「………本当に?」

「あとで曾ばーちゃんの写真を見てみな…そっくりだから」

「で、うんちくはそこまでにして…」

「あっ、息子の願いが本物なら、私のときのように姿を見せてやって欲しい」

「解った…」

サンタは、そういうとそのまま姿を消した。

「!」

「いちいち驚くな…」

「でも、本当にいたんだ…」

「ああ…」


「勝手よね…大人は」

「えっ?」

「身勝手な子供の頃を忘れて、大人の都合を押し付ける」

「それは…」

「約束だよね…」

「えっ?」

「お父さんの願いを教える…」

「うん」

「まだ、聞きたい?」

「…ううん、いいよ・・いつか自分で見つけないとね」

「そう…戻りましょう」

サンタはそういうと少年をを強く抱きしめた。

翌朝、少年は、夢の出来事に溜息をついた。ただ一つ違うのは、ベッドの横においていなかった椅子が置かれ、その座席にあのサンタの帽子が置かれている事だった。

(少し、大人になったのかな…)

少年はベッドから降りると両親の部屋に向かって駆け出した。


サンタは、クスっと笑みを零しながら、少年のベッドの端に座った。

少年の父が少年だった頃。少年は、このサンタに巡り会った。少年と同じように父親に噛み付き、クリスマスに失望していたとき、祖母が教えてくれた。サンタクロースに会うための方法を。

そして、少年は、大人になっても自分の中にサンタがいることを忘れなかった。

少年がサンタに望んだこと、それは、自分の手が届く範囲だけでいいから夢を忘れずに過ごせる事だった。

それがサンタの糧になることを少年は教えてもらった。

親は、子にいろんな事を望む。

幾つもの望みの中で幾つもの夢が消えていく。

でも、最初に託した望みを思い出すことができれば、その想いはつむがれていく。

『夢を失わない大人になっていく』

それが、父が息子に望んだ願いだった。

そして、それは、父の父も、その父も願い思い続けてくれたものだった。

「またな、坊や」

サンタは、もう少年にその声が届かない事を知った上で呟いた。