第6話
♪~
一真は、テーブルの上に放置してあった携帯電話を手に取った。
『すみません…神崎です』
「ん、どうした?」
『教えて欲しいんですけど』
「俺に解ることなら…」
『梅崎さんて…結婚しているんですか?』
「……なんで?」
『知りたいと思って…』
「本人に聞けよ…番号は知っているだろう…」
『濁されたままだから……』
「………そっか…武が抱えている問題は、結構大変そうだぜ…」
一真は、困ったように溜息をつきながらいった。言うべきか、どうかは、本人が選択するべき問題だと思っている。だから、明確な事は何も言ってあげることができない。ただ、知っている。梅崎武が抱えている心の枷を。
『えっ?』
「それでも、あいつが知りたいか?」
『………はい』
「莫迦だな…お前」
『きっと…』
「下手糞な恋愛ばっかりじゃなくて…幸せに成れる恋愛を探せよ…」と、一真は、苦笑しながら、ソファーに座った。頭を抱えるようにして、周囲に目を向けた。何も変わらない部屋の装飾品。調和とは無縁の気に入ったものモノが雑然と置かれているだけのシンプルな部屋。これが、自分の心だとしたら、武の心は暗闇の中にあるのかもしれない。
『教えてください…逃げませんから…振られるまで』
「本気かよ…」
『ええ……ただ、恋とかじゃなくて、あの人が知りたい…その後の事は、後で考えます』
「…頑張りな……」
『それが答えですか?』
「ああ…」
『解りました…』
神崎このはは、電話を切ると晴れ晴れした顔で空を見上げた。青空が眩しい。もうすぐ、梅崎武が来る。そういう約束になっていた。武との出会いは、単純なものだ。ただすれ違うようにであい、心の抱えていた荷物を取り去ってくれた。
すっきりとした気持ちで、いまは、高杉亮太を見ることができる。嘘ついて分かれた事を後悔しえいないかといえば、嘘になる。付き合っている最中に振り返らせる努力をすればそれでよかった。でも、それができない自分がいた。甘えもだけど、相手が何も臨んでくれなければ変わりようがない。
大切な想いを自分の中で封じ込めて、高杉は、このはの恋人をしてくれた。その事には感謝している。でも、本当の意味で、自分を曝け出してくれない高杉に焦りを感じていたのも事実だった。それを「逃げ」というのなら、そうなのだろう。
このは自身も捨てきれない想いを抱えている。それは、いまは届かない想いだった。それを選択したのはこのは自身である以上、そのことについて何も言う気はない。彼が、新しい恋をしようとも、それに朽ちだす権利は無い。ただ、いつか、彼に振り向かせたい。そう思う気持ちがあるだけだった。
気持ちの上で、ようやくすっきりとしている。
第5章 恋人たちのラプソディ 第1話
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